沼尻 竜典
6月のサントリー定期シリーズ/オーチャード定期演奏会に登場するのは、オペラ、シンフォニーの両輪でいま最も波に乗るマエストロ、沼尻竜典。ベートーヴェン、マーラーという二人の巨匠の傑作を取り上げるマエストロにお話を伺いました。
― マエストロにはオペラや20世紀作品で数多く共演させていただいていますが、今回はドイツ・オーストリアのシンフォニストの作品が並びました。『田園』『大地の歌』について、プログラミングの意図をお教えください。
『大地の歌』は、ノイマイヤー門下の伝説的バレエダンサー、イワン・リシュカがバイエルン国立歌劇場バレエを率いていた時代の主要なレパートリーの一つでした。バレエ専門の指揮者では振ったことがある人がいないと、私が2006/7シーズンのプレミエに呼ばれ、その後も数年間担当したので20回くらいは振ったでしょうか。オーケストラはピットの中、バレエと歌手はステージの上、テンポもダンサーと相談の上という状況でしたが、面白い経験でした。今回マーラーを得意とする東京フィルに呼ばれたので、この機会にぜひ「普通の状況」で演奏してみたいと思いました(笑)。
『田園』はもちろん「大地」からの連想です。メインディッシュが二つ並ぶ大変なプログラムですが、事務局の配慮でリハーサル時間を増やしていただいたこともあって実現しました。
―『大地の歌』のソリストのお二人についてお聞かせください。
第1楽章「大地の哀しみに寄せる酒の歌」はとにかくオーケストラが分厚い。それを突き抜ける声のワーグナーで主役を歌うような歌手という条件から、ブレンナさんのお名前が出てきました。中島郁子さんはびわ湖ホール『ワルキューレ』にフリッカ役としてご出演になり、素晴らしい歌唱が絶賛されました。今後はマーラー歌手としての活躍も期待しています。
― 田園はベートーヴェン38歳、大地の歌はマーラー48歳の時の作品ですね。
驚くべき早熟ぶりです。やはり神様に選ばれた人たちだったんでしょうね。最近は私も年齢を重ねて、名曲が作曲された時の作曲家の年齢を軽く越えていることも多いのですが、彼らの偉大さと自分の未熟さとの乗り越えられないギャップに狼狽するばかりです。
― 東京フィルとの共演において、どんなことをお感じになりますか?
東京フィルとは学生時代からのお付き合いです。きっかけは、あるピアニストが急病になり急遽代役として『ラプソディ・イン・ブルー』を弾いたことで、武道館でのイベントでしたがとても緊張したことを覚えています。それ以来、練習の見学やオーケストラのピアノパートの奏者として出入りするようになり、ブザンソンで優勝した時も真っ先に連絡をいただいて、コンサートのオファーを受けました。大野和士さんが常任指揮者を辞められたあと、4年間正指揮者を務めていたこともあり、東京フィルに来ると故郷に戻ってきたような気持ちになります。「オペラなら東京フィル」と言われるだけあって、フレキシビリティが魅力ですね。ストーリー性のある音楽が得意なので『田園』はお手のものだし、歌に寄り添うのが上手なので『大地の歌』もきっと良い演奏になるでしょう。
― 最後にお客様にひとことメッセージをお願いします。
『田園』と『大地の歌』。自然と生命について思いを巡らす素敵なコンサートにしたいと思っています。
― ありがとうございました。公演が楽しみです。
【公演情報】
第922回 サントリー定期シリーズ
2019年6月14日(金)19:00 サントリーホール 大ホール
第923回オーチャード定期演奏会
2019年6月16日(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
指揮:沼尻竜典
メゾ・ソプラノ:中島郁子*
テノール:ダニエル・ブレンナ*
ベートーヴェン/交響曲第6番 『田園』
マーラー/大地の歌*