【ゲネプロレポート】⼆期会ニューウェーブ・オペラ劇場《セルセ》が開幕

ダンスの中村蓉が演出するバロック・オペラ

 「⼆期会ニューウェーブ・オペラ劇場」ヘンデルのオペラ《セルセ》(新制作)が5月22日、23日に上演される。公演に先立ち行われた最終総稽古を取材した。
(2021.5/20 めぐろパーシモンホール 大ホール 取材・文・撮影:寺司正彦)


左:新堂由暁(セルセ)

 東京二期会の本シリーズは、新進の歌手を中心に起用、国内では数少ない本格的なバロック・オペラを上演することで話題だ。ここから巣立ち現在第一線で活躍する歌手も多い。

 《ジューリオ・チェーザレ》(2015)、《アルチーナ》(2018)に続いて、世界的な古楽チェリストであり指揮者の鈴⽊秀美を迎える。本シリーズのために創設された古楽オーケストラ「ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ(NBO)」には、東京藝術大学、桐朋学園大学の器楽専攻生の選抜チームが加わるほか、今回の通奏低音には、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)などでも活躍するチェロの山本徹、テオルボの佐藤亜紀子をはじめ、チェンバロに上尾直毅、福間彩といった古楽の第一人者が参加する。

 さらに、コンテンポラリー・ダンサーの中村蓉が、オペラを初演出することでも注目が集まっている。中村は、小野寺修二、近藤良平、室伏鴻らに師事、コンテンポラリー・ダンスの登竜門「横浜ダンスコレクションEX審査員賞」を受賞、《ジューリオ・チェーザレ》で振付を務め、ドイツで活躍する気鋭の演出家・菅尾友とオペラ《中国のニクソン》で協働し一躍注目を集めるなどオペラの世界でも評価されている。東京二期会とは、8月上演のオペラ《ルル》(カロリーネ・グルーバー演出、新制作)で振付、ソロダンサーとして出演も決まっている。

中央:牧野元美(ロミルダ)

左より:新堂由暁(セルセ)、櫻井陽香(アルサメーネ)、菅原洋平(エルヴィーロ)

中央:髙崎翔平(アリオダーテ) 右:和田美樹子(アマストレ)

 オペラ《セルセ》は、冒頭にセルセによって歌われるアリア〈オンブラ・マイ・フ〉があまりにも有名だが、オペラそのもののストーリーや音楽はそれほど知られておらず、上演も少ない。その理由は複雑に入り組んだ人間関係や、物語が関係していると思われる。中村はできるだけストーリーをシンプルにしたいと語っており、今回、指揮の鈴木や音楽スタッフらと相談し、できるだけ物語をわかりやすくするために、それほど重要でないと思われるレチタティーヴォや音楽を大幅にカット。かつ、ダンサーを歌手と同等に主役として舞台に上がらせることで、いわば“ダンスを伴った自由なオペラ”、あるいは“ダンスを楽しむオペラ”として再構成した。
 本来は3幕構成だが、今回は2幕構成として上演される。

左:牧野元美(ロミルダ) 右:新堂由暁(セルセ)

左:雨笠佳奈(アタランタ) 右:牧野元美(ロミルダ)

左:菅原洋平(エルヴィーロ) 右:雨笠佳奈(アタランタ)

 物語の舞台はペルシャ。王セルセは、将軍アリオダーテの娘ロミルダを見初めるが、王の弟アルサメーネと恋仲であることを知り、弟を宮廷から追放する。一方、セルセには異国にアマストレという婚約者がいた。彼女は男装しペルシャにやってきていたが、王が別の女性に惹かれている様子を目にし嘆き悲しむ。
 また、ロミルダの妹アタランタもアルサメーネに一方通行の想いを寄せていた。彼女はアルサメーネからロミルダ宛の手紙と嘘をつき、二人の仲違いを企む。こうして、王とロミルダの結婚式となるはずだったが、将軍アリオダーテは王の命令を読み違い、ロミルダをアルサメーネに嫁がせてしまう。王は激怒するが、そこに変装を解いた婚約者アマストレがあらわれて・・・

左より:雨笠佳奈(アタランタ)、新堂由暁(セルセ)、櫻井陽香(アルサメーネ)

左:新堂由暁(セルセ) 右:牧野元美(ロミルダ)

中央:和田美樹子(アマストレ)

 
 第1幕、序曲に続きセルセのアリア〈オンブラ・マイ・フ〉が歌われるが、そこでは歌手とダンサーが一緒になって歌詞に現れるプラタナスの樹を形作る。
 舞台上にはほとんどの場面で歌手とダンサーが一緒に登場するが、そこでは、ダンサーが歌手と一緒に踊ったり、あるときは小道具となったり、あるいは、歌手自身がダンスを踊り、ダンサーたちはヘンデルの音楽を表象したりもする。
 歌手の歌う歌詞の深層心理や心象風景を単にダンサーが表現するのではなく、歌手が主役であるように、またダンサーたちも主役であるのだ。

左:牧野元美(ロミルダ) 右:櫻井陽香(アルサメーネ)

左より:菅原洋平(エルヴィーロ)、櫻井陽香(アルサメーネ)、雨笠佳奈(アタランタ)、牧野元美(ロミルダ) 

左:新堂由暁(セルセ) 右:牧野元美(ロミルダ)

 本来第3幕の冒頭ではオーケストラによるシンフォニアが奏でられるが、そこでも歌手やダンサーによるダンスが披露される。続くアルサメーネが歌う場面では、なんと、アルサメーネによって〈オンブラ・マイ・フ〉がもの悲しく歌われる。追放され、ロミルダとの叶わぬ恋をあらわした。これは、レチタティーヴォを無言劇で表現する手法と相まって、画期的演出として評価されるだろう。

左:髙崎翔平(アリオダーテ)

中央:新堂由暁(セルセ) 


【Information】
二期会創立70周年記念公演
二期会ニューウェーブ・オペラ劇場《セルセ》(新制作)
(全3幕、日本語字幕付き原語(イタリア語)上演)

2021.5/22(土)17:00、5/23(日)14:00
めぐろパーシモンホール 大ホール

 
指揮:鈴木秀美
演出:中村 蓉

装置:松生紘子
衣裳:田村香織
照明:喜多村 貴

セルセ:新堂由暁(5/22)澤原行正(5/23)
アルサメーネ:櫻井陽香(5/22)本多 都(5/23)
アマストレ:和田美樹子(5/22)長田惟子(5/23)
アリオダーテ:髙崎翔平(5/22)田中夕也(5/23)
ロミルダ:牧野元美(5/22)塚本正美(5/23)
アタランタ:雨笠佳奈(5/22)新宅かなで(5/23)
エルヴィーロ:菅原洋平(5/22)堺 裕馬(5/23)

ダンサー(両日):中村 理、北川 結、池上たっくん、久保田 舞、田花 遥、山田 暁
合唱:二期会合唱団

管弦楽:ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ(NBO)

*本公演のチケット販売は、予定来場者数がすでに会場収容定員の50%を超えているため終了となりました。当日券の発売もございません。
問:二期会チケットセンター03-3796-1831
http://www.nikikai.net/lineup/serse2021/