【ゲネプロレポート】東京二期会《天国と地獄》が本日開幕!

 日生劇場で本日11月21日、東京二期会オペラ劇場 オペレッタ《天国と地獄》全2幕が開幕する(NISSAY OPERA 2019提携公演)。演奏は大植英次指揮の東京フィルハーモニー交響楽団、演出は鵜山仁。日本語訳詞上演だ。本公演を前に11月19、20日に行われたゲネプロ(最終総稽古)を取材した。
(2019.11/19 日生劇場 取材・撮影:寺司正彦)
※写真は又吉秀樹組。稽古のため、照明、衣裳、その他細かい演出が本番と異なる場合があります。

 運動会のBGMや「カステラ一番、電話は二番・・・」のCMなどであまりにも有名な《天国と地獄》。しかし、オペレッタそのものの上演は残念ながら多いとは言えない。今年、作曲家ジャック・オッフェンバックの生誕200年を記念し、東京二期会が12年ぶりに手がけることとなった。

 《天国と地獄》は1914年帝国劇場初演時の邦題で、正式には《地獄のオルフェ》。グルックのオペラ《オルフェオとエウリディーチェ》のパロディだ。
 《オルフェオとエウリディーチェ》の物語はこうだ。
「妻エウリディーチェの死を嘆くオルフェオは、絶望のあまり妻を連れ戻しに黄泉の国へ下るという。オルフェオの嘆きに心を動かされた神々たちは、それを許す。ただし、一つだけ条件があった。何があっても決してエウリディーチェを振り返ってはならない。
 オルフェオがエウリディーチェの手を引いて地上へと上がって来るが、自分の方を見ようとしないことに夫の愛が冷めたのではないかと訝しんだエウリディーチェは、それ以上夫について行こうしない。絶望したオルフェオは耐え切れず、エウリディーチェの方を振り向いてしまう。
 とたん、エウリディーチェは息絶える。オルフェオはふたたび嘆くが、愛の神が現れ『愛の誠は十分示された』と告げ、エウリディーチェは再び息を吹き返す」

 一方、《地獄のオルフェ》は純愛の「オルフェオとエウリディーチェ」と打って変わって倦怠期の夫婦、音楽家オルフェとその妻ユリディスの物語。話はこうだ。
「農夫アリステ(本当の姿は地獄の神プルート)に恋をするユリディスは、プルートに地獄に連れ去られる。とっくに愛想が尽きた夫から逃れられると喜んだユリディスは『私は家を出ます。なぜなら死んだから』という書き置きを遺す。書き置きを読んだオルフェも『本人が言うのだから間違いない!』と喜ぶが、世間の目が許さない。そこに現れた世論(登場人物の一人)に諭されしぶしぶ妻を取り戻しに地獄へと向かう。そこにオリンポスの神々が地獄観光とばかり集結、飲めや歌えの大騒ぎとなっている。
 そこへ、オルフェが『妻を帰して欲しい』と懇願しに来る。ジュピターは『地上に戻るまでは決してユリディスの方を振り向いてはならない』との条件を付けるが、オルフェはなかなか振り向かない・・・。そこでジュピターは・・・」
 
 今回の上演は「最初に『あ、これ知ってる』という音楽が聴こえてきたら、ワクワクするでしょう」という指揮者大植英次の希望もあり、初演版を使用し、最近ではあまり演奏されない序曲もフルで演奏する。
 また、今回は日本語訳詞、日本語台詞での上演で、歌唱部分には字幕もつく。前回2007年上演には小林一夫の日本語原訳詞をもとに演出の佐藤信が手を加えたが、今回も小林の原訳詞を元に演出の鵜山仁が現代風にアレンジ。いっそうわかりやすく親しみの持てるものとなっている。
 演出面では、オルフェを冴えない町の音楽教師に、ユリディスをコギャル風に、神々の使いであるマーキュリーを「Uber Eats」の配達人にするなど日本の世相を取り入れたものだが、第2幕、プルートを差し置いてユリディスをものにしようと、ジュピターがハエに変身、鍵穴から部屋に忍び込むシーンは出色の出来。楽しみにされたい。

 歌手陣は充実のメンバーだ。
 次代の中核を担うであろうテノールとしていまや東京二期会の中軸となった二人、又吉秀樹と山本耕平が同役で競演、互いに稽古を通じ切磋琢磨したと見えて、比較的デッドな響の日生劇場にあって、伸びやかな美声に包まれるという驚きがあった。ユリディスを歌う高橋維のコロラトゥーラは安心して聴けるが、同役の愛もも胡もメキメキと力をつけてきているなど楽しみな歌手も多い。また、成長著しい吉田連のジョン・スティクスや演技派、升島唯博のマーキュリーも楽しい。前回も出演の「世論」役の押見朋子は安定の演技。こちらも前回出演のバッカス、峰茂樹は最後は美味しいところ独り占め!
 有名な「カンカン踊り」もあって、「ああ!楽しかった!」と劇場をあとにできること請け合いである。


【第1幕】

愛もも胡(中央、ユリディス)、又吉秀樹(右、オルフェ)


上原正敏(中央、プルート)


押見朋子(左、世論)

左より:野村光洋(マルス)、大川 博(ジュピター)、髙品綾野(ミネルヴァ)、小村朋代(ダイアナ)、醍醐園佳(ジュノー)、山本美樹(ヴィーナス)、吉田桃子(キューピッド)

左より:大川 博(ジュピター)、升島唯博(マーキュリー )、醍醐園佳(ジュノー)

左より:上原正敏(プルート)、醍醐園佳(ジュノー)、大川 博(ジュピター)、髙品綾野(ミネルヴァ)


【第2幕】

愛もも胡(左、ユリディス)、吉田 連(右、ジョン・スティクス)



中央:峰 茂樹(バッカス)、上原正敏(プルート)

中央:峰 茂樹(バッカス)



【Information】
ジャック・オッフェンバック生誕200年記念
東京二期会オペラ劇場《天国と地獄》(新制作)
(全2幕・日本語訳詞上演・歌唱部分のみ日本語字幕付き)

2019.11/21(木)18:30、11/22(金)14:00、11/23(土・祝)14:00、11/24(日)14:00 日生劇場

指揮:大植英次
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

演出:鵜山 仁
装置:乘峯雅寛
衣裳:原 まさみ
照明:古宮俊昭
振付:新海絵理子

配役
プルート:上原正敏(11/21,11/23) 渡邉公威(11/22,11/24)
ジュピター:大川 博(11/21,11/23) 三戸大久(11/22,11/24)
オルフェ:又吉秀樹(11/21,11/23) 山本耕平(11/22,11/24)
ジョン・スティクス:吉田 連(11/21,11/23) 相山潤平(11/22,11/24)
マーキュリー:升島唯博(11/21,11/23) 児玉和弘(11/22,11/24)
バッカス:峰 茂樹(11/21,11/23) 志村文彦(11/22,11/24)
マルス:野村光洋(11/21,11/23) 的場正剛(11/22,11/24)
ユリディス:愛 もも胡(11/21,11/23) 高橋 維(11/22,11/24)
ダイアナ:小村朋代(11/21,11/23) 廣森 彩(11/22,11/24)
世論:押見朋子(11/21,11/23) 塩崎めぐみ(11/22,11/24)
ヴィーナス:山本美樹(11/21,11/23) 中野瑠璃子(11/22,11/24)
キューピッド:吉田桃子(11/21,11/23) 熊田アルベルト彩乃(11/22,11/24)
ジュノー:醍醐園佳(11/21,11/23) 三本久美子(11/22,11/24)
ミネルヴァ:髙品綾野(11/21,11/23) 吉田愼知子(11/22,11/24)
合唱:二期会合唱団

http://www.nikikai.net/lineup/orphee2019/