【ゲネプロレポート】東京二期会《サロメ》(1)

退廃的なオスカー・ワイルドの世界を見事に伝える好演
 

 4月にコンチェルタンテ(セミ・ステージ)として上演されたマスネ《エロディアード》と対を成す東京二期会「二つのサロメ」プロジェクトの後半、R.シュトラウスのオペラ《サロメ》がいよいよ始まる。こちらは東京文化会館でのフルステージ。舞台はハンブルク州立歌劇場との共同制作で、演出はヘンツェの世界初演なども手掛け著名で経験豊かなヴィリー・デッカーによるものだ。6月5日&8日組のゲネプロ(最終総稽古)を観た。
(2019.6/3 東京文化会館 取材・文:山田真一 撮影:寺司正彦)

左より:森谷真理(サロメ)、大槻孝志(ナラボート)、杉山由紀(ヘロディアスの小姓)

森谷真理(サロメ)

 熱心なオペラファンならずともR.シュトラウスの《サロメ》というオペラ名、「七つのベールの踊り」という名称やその音楽をどこかで耳にしたことがあるだろう。R.シュトラウスの作品中《ばらの騎士》と並んで有名で演奏機会が多いオペラで、R.シュトラウスの作品の中でも最盛期に書かれた優れた作品だ。

 周囲の男を次々と虜にする絶世の美女としてサロメは知られるが、その存在は『新訳聖書』や『ユダヤ古代誌』にあるだけで本当に実在したのか、実在したのならどのような女性だったのか定かでない。そのためマスネ《エロディアード》のように文豪フロベールが描いた恋に一途な女性として描かれたかと思うと、この作品の原作オスカー・ワイルドの戯曲のように神や聖者も恐れぬ魔性の女として描かれたりもする。聖職者の首をはねて接吻するという原作は、当時上演を拒否されたほど衝撃的で退廃性に満ちているが、R.シュトラウスは原作のドイツ語訳をほぼそのまま用いていることから、オペラも百年以上経った現在でも倫理観に挑戦する衝撃的な内容だ。

森谷真理(サロメ)と大沼 徹(ヨカナーン)

 ヴィリー・デッカーの舞台(新演出)は、東京文化会館のステージ空間すべてを利用した奥行きと高さのあるもので、そこを出演者が縦横無尽に動き回るだけで見る者を引き込む。出演者たちの衣裳は一見シンプルだが、曲と歌に合わせた細かい動きと小道具、シルエットにより、登場人物の背徳さ、愚鈍さ、滑稽さが見るものにはっきりとわかる演出となっている。また物語の前後関係をよく翫味した上の演出の良さが光る。見所としてはやはり「七つのベールの踊り」や終盤のサロメと聖者ヨカナーンの場面が挙げられるが、ぜひご来場してご自身の目で確かめて欲しい。

森谷真理(サロメ)と今尾 滋(ヘロデ)

中央:池田香織(ヘロディアス)

 歌手と演奏陣の出来も素晴らしい。ピットに入る読売日本交響楽団を指揮するのは新たに同響常任指揮者となったセバスティアン・ヴァイグレ。フランクフルト歌劇場の音楽総監督を長年務め、バイロイト音楽祭やウィーン国立歌劇場など世界的歌劇場で評判を取っているだけに、その指揮ぶりは隙がなくダイナミック。読響のアンサンブルの高さと相まってR.シュトラウスのシンフォニックな音楽を十二分に堪能できる。物語の重要な場面をリードするサロメ役、この日は欧米の主要歌劇場でも活躍した森谷真理。その相手役となるヘロデ王にはドイツオペラ・テノールの地位を確実にし上がり調子の今尾滋という充実のキャスティング。大オーケストラに負けることのない張りのある歌手陣の声も大いに楽しめる。ダブルキャストの6月6日&9日組のサロメ役の田崎尚美、ヘロデの片寄純也も力のある歌手だけに、また違った個性で堪能させてくれるだろう。

森谷真理(サロメ)

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ハンブルク州立歌劇場との共同制作公演 
東京二期会オペラ劇場 R.シュトラウス《サロメ》

2019.6/5(水)18:30、6/6(木)14:00、6/8(土)14:00、6/9(日)14:00
東京文化会館

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
演出:ヴィリー・デッカー
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:二期会合唱団

配役   
ヘロデ:今尾 滋(6/5、6/8) 片寄純也(6/6、6/9)
ヘロディアス:池田香織(6/5、6/8) 清水華澄(6/6、6/9)
サロメ:森谷真理(6/5、6/8) 田崎尚美(6/6、6/9)
ヨカナーン:大沼 徹(6/5、6/8) 萩原 潤(6/6、6/9)
ナラボート:大槻孝志(6/5、6/8) 西岡慎介(6/6、6/9)
ヘロディアスの小姓:杉山由紀(6/5、6/8) 成田伊美(6/6、6/9) 他

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二期会チケットセンター03-3796-1831(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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