〜《こうもり》が愛されるワケ〜

「忘れることと、これ以上何も変わらないことが幸せ!」

「忘れることと、これ以上何も変わらないことが幸せ!」
 《こうもり》第1幕で、アイゼンシュタインに成りすましたテノール歌手のアルフレートと、ロザリンデはワイングラスを手に、こう歌います。ここに、ウィーン人の人生哲学、即ち、退廃的で刹那的な気質がうかがわれるといわれることも少なくありません。
 何を忘れたいのか、何が変わらないで欲しいのか・・。これには、《こうもり》が初演された1874年のウィーンの社会情勢が関わっているといわれます。
 たしかに、ウィーンでは《こうもり》初演の前年に株価が大暴落し、劇場に足を運ぶ人々の多くも、それまで励んだ蓄財に大きな被害を受けました。そして一方では、中世以来、権勢を誇ったハプスブルク帝国もハンガリー独立の機運に押され、1867年にはオーストリア=ハンガリー二重帝国発足を余儀なくさせられるという時代でもありました。当時のウィーンの誰もが、ギリギリのところで保っているいまの繁栄が変わることなく続いて欲しい・・と思ったわけです。
 こうした社会背景のなか、アン・デア・ウィーン劇場で初演された《こうもり》に、多くの人々が心情的な共感を得たのは、至極当然のことだったかもしれません。
 しかし、ウィーンのこうした状況だけが《こうもり》の世界的な人気をもたらしてきたわけではないでしょう。「忘れることと、これ以上何も変わらないことが幸せ!」は、さまざまな事情の違いはあるものの、世界中の誰もが抱く共通の思いだったことが、初演から140年、オペレッタの最高傑作《こうもり》の人気を支えてきたのではないでしょうか。
 忘れられないことがあるのは確か、変わらぬものなどない・・そんな現実に生きる私たちだからこそ、「忘れることと、これ以上何も変わらないことが幸せ!」と陶酔のなかで歌われる《こうもり》を愛してやまないのでしょう。

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