演出家マレッリが語る《メリー・ウィドウ》(3)

民謡の調子に乗せた愛の告白
 マレッリ:「第1幕の激しい口論の後にふたたびダニロと話す機会を作るため、ハンナは第2幕の冒頭に純情なおとぎ話調の『ヴィリアの歌』を歌います。彼女はここでダニロとの最初のしあわせな出会いを夢見るように振り返りますが、これは彼への愛の告白です。彼女の歌う狩人はダニロであり、もちろんダニロはそこに一緒にいなければなりません。ダニロも、このまるで子供の国のおとぎ話調のトーンを、『王子と王女の物語』を歌う際、彼女にメッセージを送るために利用します。『ヴィリアの歌』と『王子と王女の物語』は同類で、ハンナもダニロも、もはや直接言葉にできないことを表すためには暗号が必要なのです。

「ヴィリアの歌」の場面 Photo:Dimo Dimov / Barbara Palffy / Volksoper Wien

「ヴィリアの歌」の場面
Photo:Dimo Dimov / Barbara Palffy / Volksoper Wien

 グスタフ・マーラーは、《メリー・ウィドウ》を大変好んでいました。しばしば彼は自分の音楽の中で、確固たる安心感、確固たる愛を描写することに努めました。それらは、たとえば≪角笛交響曲≫における、素朴な民謡調の回想です。あるいはマーラーは、《メリー・ウィドウ》において自分との類似点を見たのかもしれません。
 延々と続くかに見えた激しい応酬が終わったように見えたとき、もうこれ以上喧嘩できなくなったとき、男と女の間の議論が終わり、理性的な対話が意味を持たなくなったとき、かれらの体が話すこと、囁き、静かに注意を引き付けることを始めます。“唇は黙っても、ヴァイオリンはささやく、わたしを愛して、と…”二人が互いに言葉では言えないことを、音楽が語ってくれます。そしてまさに心の内面の言葉だけに耳を傾けようとしたとき、ほとんど夢の中にいるように、かれらの体が動き始めます。別の感情が現れます。それは感覚的欲求です。感情的できわめて官能的な踊りが始まります…。」
女たちによるマーチ Photo:Dimo Dimov / Barbara Palffy / Volksoper Wien

女たちによるマーチ
Photo:Dimo Dimov / Barbara Palffy / Volksoper Wien

「女たち」も行進する
 趣向をこらした芝居と音楽の柱の一つ、『7人の男たちによるマーチ』第9番は、このスコアにおいて本公演の脚色の中軸をなしている。この『女・女・女のマーチ』では、集まった男たちがまるで飲み屋にいるような雰囲気の中(ここの実際の場面は高級バーである)、“女たち”の扱い方についてやりとりする。これはマレッリによれば、「男女間の闘いの一つのヴァリエーションであり、破れかぶれさが全面に覆っています」。ここで人気のオペレッタは休憩となる。そして第2部は、女たちによるマーチで始まる。いわばさきほどとは逆の女性の視点から見た、『男・男・男のマーチ』であり、ここでは“敵方の”男性陣が、女性陣からぼろくそにこきおろされているのも無理もない。
 しかし、われわれがなんといってももっとも注目しているのは、とどのつまりはハンナとダニロの“ハッピーエンド”である。
 マレッリいわく「二人とも正直な感情を求めています。二人の非常に深く傷ついた人間が、最後には幸せに抱き合うのですが、それまでの間に互いにひどく傷つけ合うのです。喜劇には、しかし、つねに多くの悲劇的な要素も含まれています。幸せなのは、このような状況を笑う術を心得ている人なのです。」

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