アンドレア・ロスト インタビュー

“シルヴァ・ヴァレスクは深く大きな愛に生きた人。彼女の真の美しさを、日本の皆さまに届けたい” 

2015年12月、フォルクスオーパーへのデビューとなる『チャルダーシュの女王』初日を前に、ウィーンでお話をうかがいました。

ーー『チャルダーシュの女王』のシルヴァ役は、これまでに歌われたことはありますか?
ロスト:
いえ、そもそもオペレッタの全曲で舞台に立つのは、今回が初めてです。『チャルダーシュの女王』はハンガリーでは国民的な人気作品ですから、ハンガリー出身の私としては、シルヴァを歌うのはとても嬉しいことです。

ーー『チャルダーシュの女王』の魅力とは?
ロスト:
まず、ここに描かれているのが、第一次大戦が始まったころの物語だということを、常に頭に置いておかなければなりません。歌の歌詞に“今日、生きていることを感じなければ、明日はもう生きていないかもしれない”というのがありますが、この当時を映す真実の言葉なのです。舞台は賑やかで楽しい雰囲気ですが、当時の社会情況と照らしてみると、そこに潜むメランコリーやドラマティックさが盛り込まれていることがわかります。

ーーロストさんといえば、ヴィオレッタやジルダの印象が強いのですが・・・。
ロスト:
たくさん歌ってきましたからね(笑)。でも、私はヴィオレッタとシルヴァには似ているところがあると思っています。シルヴァは、素晴らしい歌姫として劇場に人生を捧げています。でも、愛するエドウィンと結婚できるなら、そのすべてを捨ててもよいと考えているのです。シルヴァにとってはエドウィンとの愛が唯一望むものなのです。

ーーでも、実際にはエドウィンが、“離婚した貴族の夫人なら、僕と結婚するのは簡単だ”と言うのを聞いて、“歌姫に戻ります!”と言うんですよね。
ロスト:
そう。それもエドウィンの人生を壊さないため。すべてをわかって身を引くのです。ヴィオレッタはアルフレードの父親から請われ、愛するが故にアルフレードの前から去る、シルヴァは結婚の誓約書を破り捨てることで、彼を自由にしてあげたわけです。

ーーあの場面、シルヴァはプライドから怒りを爆発させたのだと思っていました。
ロスト:
もちろんプライドということはあります。でも、やはりエドウィンの人生を壊したくないということが強いのだと…‥、これは私の解釈ですけれどね。

ーーヴィオレッタやジルダのような不幸な役と、シルヴァのようにハッピーエンドを迎える役、どちらを演じるのがお好きですか?

ロスト:とても興味深い質問です。まず、どの時点をもって不幸というのか、のとらえ方が関わってきますから。たとえば、私はヴィオレッタは幸せな女性だと思っています。彼女はただ一人の愛する人を見つけ、とても深く愛する感情をもつことができた。現実では、それほど強い愛を知ることなく80歳までの一生を過ごすという女性の方が多いのではないでしょうか。

ーー別れたり死ぬことが不幸なのではなく、本当に愛する人と巡り合えたことを幸せと考えるわけですね。
ロスト:
そうです。その感情を、その気持ちを知ることができたことを、です。私は、娘や息子を見ていても感じるのですが、みんな、完全に恋に落ちることを恐れていますよね。すべてを投げ出さなければならないような状況になることを恐れて、感情を入れ込めない・・・。ジルダは愛する人のために自分の命を捧げたわけです。素敵だと思います。
 私はこういう感情を知ることは、とても大切なことだと思っているのです。誰かをとても熱烈に愛するという感情は、多くのことを学ばせてくれるものですから。人生で節約してはいけないものの一つです(笑)と。

 アンドレア・ロストが考えるシルヴァの本質ーーそれは、深く一途な愛と強い心をもつ女性。彼女の思いが発揮される舞台が楽しみです。
(インタビュー・文 吉羽尋子 音楽ライター)

公演の合間のワンショット。「シルヴァのこの衣裳はどう?」とロスト。

年明け早々、12月の公演が撮影された舞台写真のポスターがフォルクスオーパーに掲げられているのを発見した、とロストさん。

12月の公演より舞台写真。

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