フォルクスオーパー交響楽団がサントリーホールで行う大晦日のジルヴェスター・コンサートと年明けのニューイヤー・コンサートは、日本でもすでに年末年始の恒例として、多くの方々に楽しまれています。特に今回のジルヴェスター・コンサートは、サントリーホール開館30周年を迎える2016年の幕開けを飾る特別企画として、〈メリー・ウィドウ〉がコンサート形式で演奏されました。ここでの演奏を聴いて、5月のフォルクスオーパー日本公演での舞台上演に期待を膨らませたファンも多いはず!
ファンを魅了する“ウィーンの薫り”を備えたオーケストラ、その秘密を探るべく、フォルクスオーパー交響楽団の代表ペーター・ガラウン氏と、現団長エーリッヒ・ザウフナウアー氏、次期団長のヘルムート・ヘードル氏にお話をうかがいました。
(*ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団は、ウィーン・フォルクスオーパーのピットで演奏するウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団のメンバーから成るオーケストラ。ウィーン国立歌劇場管弦楽団とウィーン・フィルと同様。団長は任期満了による交代が決まっているため、新旧両名がインタビューに出席してくれました)
ーー日本での演奏を通して感じることは?
ヘードル:何よりも、みなさんがとても楽しんでくれているということが強く感じられます。
ザウフナウアー:日本のお客さんが事前に準備をして、きちんと楽しもうとして来てくれることは、ウィーンとはちがうところです。私たち自身、フォルクスオーパーのメンバーであることの喜びや誇りを、あらためて感じさせてくれるのが日本の皆さんです。
ヘードル:たまにはあるけど、それほど自由にやっているわけではないですよ。たとえば、私はもう30年くらい〈こうもり〉を演奏しているけど、ほとんどセリフは覚えてる、プロンプターができるくらいね(笑)。
ガラウン:マイヤー総裁は結構厳格なんです。俳優としても著名な人ですから、ほかの歌手たちにも厳格にまもってしゃべるように、と。
ーー今回の3つの演目のうち、〈チャルダーシュの女王〉は日本では久々の公演となります。
ヘードル:そういえば、以前の日本公演で、踊り子に扮したバレエダンサーの衣裳が下着みたいなところがあるので、日本の男性たちがびっくりしちゃってた(笑)
ーーとても楽しい作品ですが、歌手は大変そうですよね。
ヘードル:オペレッタは本当のところオペラよりも大変かもしれません。歌だけでなく、セリフも踊りもあるし。
ザウフナウアー:そうです。よく注意していないとね。ある意味モーツァルトの方がやり易いということもあります。オペレッタの場合には、いろいろなやり方や伝統があるから、楽譜を見れば弾けるということにはならないんです。
ガラウン:今回指揮をするルドルフ・ビーブルさんは特に、流れや揺れというものをもっている方です。いわゆるウィーンの伝統的な音楽の指揮者として、最後の一人という存在かもしれません。
ーー“流れや揺れ”というのが、私たちがほかでは感じることができない“ウィーンの薫り”というもので、それこそがウィンナ・オペレッタに不可欠なのだと思います。これを“生み出す”最大の秘訣とは?
ヘードル:私たちの文化、メンタリティによるところでしょうね。たとえば、ヨーロッパの人が歌舞伎をやるとして、できるかもしれないけど、日本人から見たらヘンな感じがするのと同じで、伝統というのはやはり文化に根差しているんだと思います。
ーー新しいメンバーには特別な訓練をするとか?
ガラウン:ハハハ・・そんな・・(笑)。オーディションをするからね、それができるかどうかはそのときにわかるんですよ。いまオーケストラには26の国の人が在籍しています。日本人の正団員も4人いますよ。
ーーそれほど多国籍であっても “ウィーンの薫り”は保たれている・・
ザウフナウアー:楽譜に書いてあることだけではない、書くことすらできないような感覚は、一緒に演奏するなかで養われていくものなのです。
[その(2)に続く]