何よりも音を大切に。 そのために実現した究極の音響性能

鹿島建設株式会社
ヤマハ銀座ビル新築工事 所長 加藤亮一氏

 新ヤマハ銀座ビルの全長は96メートル。地上66メートル部分に店舗やサロン、ホール、音楽教室を備え、地下14メートル部分にはライブハウスを有する。まったく用途が異なる施設を縦に積み上げたこのビルは実に多様な構造だ。施工を担当したのは、鹿島建設株式会社。ヤマハ銀座ビル新築工事所長の加藤亮一氏は、「いくつもの建物を同時に造っている感覚だった」と語る。

 今回新ヤマハ銀座ビルの施工に関われて、心の底からうれしく思いました。実は私、ビートルズをきっかけに音楽にハマり、学生時代にバンドをやっていたんです。ギターとキーボード担当で「ポプコン」にも出演したことがあるんですよ。音楽好きな友人が多く、「お前が新しい銀座のヤマハを造ってるの?」とうらやましがられました。銀座のヤマハはみんなが通った場所ですから、それぞれ想い出が詰まっているのでしょう。私は、自分が手がけた建物には何年経っても「元気か?」と声をかけに訪れています。新ヤマハ銀座ビルの場合はさらに楽器を見に来たり、コンサートを聴きに来たりできると思うと、いまから心が躍る思いです。

 新ヤマハ銀座ビルの大きな特長は、なんといっても通常のレベルを遥かに超える、非常に高い遮音性能。今までたくさんの建物を造ってきましたが、これほど音が大事にされている建物はありません。この遮音性能はまさに「究極」です。


究極の遮音を実現する「ボックス・イン・ボックス」

 そんな究極の遮音を実現するために用いたのが、「ボックス・イン・ボックス」という構造でした。建物のフレームの上に各部屋が浮いている、いわば浮き床という方法を用いたもの。しかも床だけではなく、壁面や天井も浮かせています。文字通り箱(建物)の中に箱(各フロア)があるようなものです。作業手順で説明すると、いったん床を作り、そこに振動を吸収する素材を敷き詰めます。その上にもう一度床を作った上で側面にも振動吸収材を入れ、壁や天井を作るわけです。この手法で音楽教室の小さな教室から、三層吹き抜けの大ホールまでを浮かせています。ここまで徹底しているのは前代未聞ですね。階段やトイレも浮いている部分があり、最初は図面が間違っているんじゃないかと思ったくらい(笑)。


初の試み「二段逆打ち工法」を提案

 ビル全体の工法には、地上と地下を同時に工事する「二段逆打ち工法」で進めました。そもそも「逆打ち」とは、地下と地上を同時に進める工法。さらに地下工事を二段階に分け、地上の工事も含めて同時進行させたのです。地上と地下で二段同時に逆打ちをやった例は、おそらく初めてだと思います。このビルは地下に施設をかかえるため、超高層ビルなみに地下30メートルまで掘る必要がありました。さらに、非常に多くの仕事量が生じるヤマハホールが地上7階という高い部分に設置されたことから、工事プロセスの組み立てに大きな制約が生ました。その制約を解決するべく提案した工法です。ホール工事のためにはタワークレーンという機械を順次登っていく方法で稼動させ、ホールの上階までクレーンを登らせてしまって、早期にホールの内装工事に着手しています。

 新ヤマハ銀座ビルの施工に着手したのは2007年5月10日。通常のビルよりも多量の木材を使用したこともあり、細心の注意を払って対応しました。また、銀座という場所柄、昼は大型車輌を使った資材の出し入れができないため、鉄骨や外装など特殊車両で運んでくるものは夜間に限定されてしまいます。敷地内には必然的に夜間工事と昼間作業用に資材をストックすることになり、ワークスペースの確保が難しかったですね。


竣工引き渡しは、娘を嫁にやるような気持ち

 でも、技術や工程を含めて手間や労苦が多いほど、できあがった時の歓びは大きいものですよ。私にとって竣工引き渡しは、娘を嫁にやるような気持ちとでも言いましょうか。我々はビルという無機物を組み立てていますが、ビルが完成して人が入ってきた瞬間、そのビルはまるで生き物のように息づき始めるのです。それを目の当たりにしたときの感動は大きく、次の取り組みへの活力になる。できあがった建物は自分の娘のように見守っていますから、引っ越しのときに机が壁や床にぶつかるのを見るとちょっと切ない気持ちになるんですが…(笑)。しかしそうやって付いたキズも含めて、その建物が生きた証になっていくんですよね。