実行委員会事務局長が語る、日中国交正常化45周年記念・特別演奏会

 日中国交正常化から45年。様々な文化交流が行われる中、東京フィルハーモニー交響楽団がこの秋、中国のスター指揮者を招き特別演奏会を開催する。
 日中国交正常化45周年記念公演実行委員会の事務局長を務める、東京フィルハーモニー交響楽団広報渉外部部長の松田亜有子に話を聞いた。

◆きっかけは1本の電話

きっかけはたった1本の電話だった。
「もしあなたの気力が残っているならば、本当は何かできたらいいですね」
 電話の主は福田康夫元首相だった。
 「もしも」と気遣う背景には、秋に予定していた中国のオーケストラの日本公演が、急遽中止になったことがある。5月下旬、かなりの時間と神経を準備に費やしていたところに突然の中止の報。なんとも言えない複雑な気持ちで過ごしていたところ、ねぎらいの声をかけられたという。

「中国とのお繋がりの深い福田先生から、もともと、この秋の公演の事を依頼されていたのです。福田先生の『あなたの気力が残っていたら・・・』という言葉がずっと心に残り、このまま何もしないのは簡単だけれども、やはりこんな時こそ、文化交流、人と人との交流を絶やしてはいけないのではないか、と思ったのです。『音楽、文学、芸能、スポーツこそ、国をかたちづくる一人ひとりの人間の絆となると信じている』、という私の祖母の言葉も浮かびました。中国の楽団が来日できないのならば、日本の楽団で何かできないか?と思ったのです」

 しかし、すでにその頃、所属する東京フィルでも2017年度の事業は始まっていて、東京フィル主催という形ではできない。どのような仕組みでやるか、1ヶ月ほど考えぬいた。
「その1ヶ月の間に共に動いて下さったのが、東京フィル前理事長の大賀典雄さんがSONYにおられた頃、大賀さんに紹介された、当時SONY中国にいらした遅澤准さんです」
 まわりのサポートをうけながら実行委員会が立ち上がり、ここから一気に出演者交渉、 スポンサー交渉が始まり、開催が現実味を帯びてきた。

◆アジアをベースに世界と繋がる

 日中国交正常化記念とはいえ、出演者を日本と中国のアーティストだけで固めるのではなく、アジアをベースに世界と繋がる、そんな世界観を描けたらいい。そう考えた松田は自身、ずっと日本に紹介をしたいと思っていたイタリア人のピアニスト、セルジォ・バイエッタに依頼した。
「日中を軸として世界と繋がる、この演奏会ではそんな世界観を創りだしていきたいですね、と指揮者と話した際、私の中で一人のピアニストが浮かびました。昨春、東京フィル首席指揮者のアンドレア・バッティストーニに紹介され音楽会へ赴いた時のこと、なんとも魅力的なピアノを奏でておられ、そこに音楽が溢れていたのです。あたたかく歌心溢れるセルジォ・バイエッタさんのピアノの音は、まさにこの特別公演にぴったりで、世界が繋がっていくイメージがわきました」

◆知られざるスター指揮者

 セルジォ・バイエッタとともに指揮のリュー・ジァも、日本のオーケストラとは初共演であり、本格デビューとなる。そのため、日本国内ではあまり名が知られていない。
「リュー・ジァさんがヴェローナの歌劇場で首席指揮者を務めておられた事から、マエストロもヴェローナ出身のバイエッタさんとの共演を大変に喜んでくださっています。
 中国では、今、ものすごく芸術文化にお金が注がれています。次々と新しいコンサートホールができ、世界中でオーディションをし、世界各国から優秀な若い音楽家が集まり、新たなオーケストラができたり。クラシック音楽界が大いに盛り上がっています。10年前に中国とお仕事をさせていただいた時とは、まったく様相が異なり、先日も上海へ行った際、オーケストラの事務所の設備に驚きました。まさに最新のテクノロジーを使って、英語を話し世界と繋がっている。
 その中国で今、音楽界をリードしている一人が、この秋登場する中国国家大劇院音楽監督・同管弦楽団首席指揮者のリュー・ジァさんです。ベルリン芸術大学留学中には、指揮者の沼尻竜典さんも同じ時期に勉強をされていたそうです。沼尻さん曰く、当時から、イタリアで開催された指揮者コンクールで1位に選ばれたり、学生の頃から指揮活動をし、優秀でさわやかな青年だったと。これからはアジアの指揮者がヨーロッパのオペラハウスで活躍する、そんな時代が来るのかな、と思われていたそうです」

◆最後の奏者はお客様

 東京フィルの名誉音楽監督チョン・ミョンフンが常々口にする「音楽の力」を松田も信じて疑わない。
「マエストロ・チョンがいつも言うのです。『演奏会場では、隣にいる人がどこの国の人か?どの宗教か?忘れることができます。みな目の前で生み出されている音楽を一緒に聴いています。これこそが奇跡であり、音楽の力です』と。資源や物流の流れだけが、国と国をつなぐ絆ではありません。
 最後の奏者はお客様。演奏会は必ずお客様の拍手で幕を閉じます。最後、みなで拍手をしてハーモニーを創っている。これこそが奇跡であり、音楽の力であると私は思います。音楽が奏でられる、その時はみながひとつになれるのです。たった2時間の演奏会かもしれない、でもその2時間の積み重ねが、優しい未来を創っていくのではないのか、と信じています」
(聞き手・構成:ぶらあぼ編集部)

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◆プロフィール
松田 亜有子:

(公財)東京フィルハーモニー交響楽団 広報渉外部長、(株)経営共創基盤(IGPI)顧問

大学卒業後、長岡市芸術文化振興財団にて企画・広報に従事。
2001年秋に長岡リリックホール開館5周年記念として実施された、英オールドバラ音楽祭との共同事業「ブリテンのオペラ《カーリュー・リヴァー》と能《隅田川》の同時公演」の事業・広報を担当。本事業は英国における「JAPAN2001」企画として認定され日英両国で高く評価された。

その後、東京フィルハーモニー交響楽団に移った後、音楽の未来遺産『三善晃の世界』を指揮者沼尻竜典氏と企画し、企画、演奏が高く評価され数々の賞を受賞。その後、日本郵政株式会社コーポレートコミュニケーション部門を経て、経営共創基盤(IGPI)に参画。大手事業会社のCSR活動推進支援、岩手県北自動車株式会社、福島交通株式会社、茨城交通株式会社旅行部門の事業成長支援に尽力する。
2013年5月、再び東京フィルに戻り、「東京フィル創立100周年記念ワールドツアー」(2014年3月)、および「日韓国交正常化50周年記念公演」(2015年12月)の広報統括責任者を務める。

活水女子大学音楽学部ピアノ・オルガン学科卒業。

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日中国交正常化45周年記念公演

東京フィルハーモニー交響楽団特別演奏会

2017年11月24日(金)19:00 東京オペラシティコンサートホール
指揮:リュー・ジァ(呂嘉)
ピアノ:セルジォ・バイエッタ

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
チャイコフスキー/交響曲第5番

料金:S6,000 A4,500 B3,500 C2,000

主催:日中国交正常化45周年記念公演実行委員会
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522(平日10:00〜18:00)