【2月定期聴きどころ】ロシアの至宝 プレトニョフの指揮で聴く ≪極彩色のパノラマ≫ 

ロシアの大地が育んだ「劇場文化」

ロシアの冬は長く厳しく、湖も森も凍てつく暗い季節に、人々にとって唯一の楽しみは劇場に集うことでした。芝居、オペラ、コンサート、バレエ、人形劇まで、まだ電気が発明されていなかった時代から、ロシアで「劇場文化」がこれほど豊かに育ったのは、陰気な季節に人々に娯楽を与える唯一の場所が劇場だったからなのです。300年近い歴史をもつ古い劇場も少なくない中、帝政時代もソ連時代もロシアの劇場はつねに公的援助を受けてきました。ロシアの劇場から世界へ飛び立つ歌手やバレエダンサーが多いのも、この国のシアトリカルな「土壌」の豊かさを物語っています。

ミハイル・プレトニョフ
(C)上野隆文

マエストロ・プレトニョフが2月の定期演奏会で演奏するストラヴィンスキーの2曲は、チャイコフスキーが洗練の極致まで磨き上げたバレエ音楽をさらに進化させた20世紀の表現です。『ロシア風スケルツォ』は4分ほどの短い曲の中に、作曲家のユーモアと知性が詰まった行進曲風の作品。振付家のジョージ・バランシン(1904-1983)がこの曲に、10数人の女性ダンサーが登場するバレエを振り付けていますが、ストラヴィンスキーはバランシンのために小さなバレエ音楽をたくさん書いています。「イーゴリ・フョードロヴィチ(ストラヴィンスキーのこと)、ポルカが一曲必要なのですが、書いてくださいますか?」とバランシンが電話でたずねると「いいでしょう。ちょうど時間があるからね。誰のためのポルカだい?」と答え、サーカスの象のためのポルカまで書いたといいます。

 

初演から熱狂的に支持されたストラヴィンスキー『火の鳥』


イーゴリ・ストラヴィンスキー
(1882-1971)

『火の鳥』はロシアの伝説的興行主ディアギレフ(1872-1929)がバレエ・リュス(1909年から1929年まで存在したディアギレフ主宰の伝説のバレエ団)のパリ公演のために若きストラヴィンスキーに依頼したバレエ音楽。1910年の初演では熱狂的な賛辞を受け、28歳のストラヴィンスキーは一躍時の人となります。バレエ音楽の抜粋からオーケストラ用の組曲が書かれ1911年、1919年、1945年版の中でも最も長いデラックス・ヴァージョンが今回は演奏されます。魔王にとらわれた王女と彼女に恋をした王子が、火の鳥の助けによって救われるという、ロシアの伝説が音楽の着想の源になっており、マエストロ・プレトニョフが2015年に指揮をした演奏会形式『不死身のカッシェイ』と少し似たところがあります。オーケストラがロシアの極彩色のパノラマを見せてくれるでしょう。

 

新鋭チェリスト、アンドレイ・イオニーツァが東京フィルと初共演


アンドレイ・イオニーツァ
©Thomas von Wittich

ストラヴィンスキーの間に演奏されるプロコフィエフの『交響的協奏曲(チェロ協奏曲第2番)』は、名チェリスト、ロストロポーヴィチの協力で完成したコンチェルトで、1番にはない抒情性、ユーモアと演劇性があり、作曲者の晩年のノスタルジックな味わいも加味されています。ストラヴィンスキーのバレエ音楽と並べて演奏されると、プロコフィエフの名作バレエ音楽『シンデレラ』を思い出さずにはいられません。2015年のチャイコフスキー国際コンクールのチェロ部門で1位を獲得し、2016年10月の来日リサイタルでは驚くべき音楽性と成熟した人間性を表現したアンドレイ・イオニーツァが東京フィルと初共演。濃密なコンチェルトを聴かせてくれるはずです。
文:小田島久恵

第107回 東京オペラシティ定期シリーズ
2/23(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第890回 オーチャード定期演奏会
2/26(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
http://www.tpo.or.jp/