東京フィルの2019年シーズン定期演奏会のラインナップが発表された。そのみどころや方向性を探ってみよう。
東京フィルは新国立劇場のオペラを支える中心的なオーケストラ。足腰のしっかりした粘りのあるサウンドで、奥深いドラマを表現する力を日常的に培っている。この表現力がシンフォニー・オーケストラとしての活動にも影響していることは、次シーズンのラインナップにもはっきりと表れている。
まず指揮者陣。ドラマを生き生きと躍動させることにかけては天性の力をもった首席指揮者のアンドレア・バッティストーニを軸に、名誉音楽監督チョン・ミョンフン、特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフという2人の世界的巨匠、さらに新国立劇場オペラ部門を率いていた桂冠指揮者・尾高忠明、そして次代の日本のオペラ界を担う沼尻竜典と、オペラのプロ中のプロたちが次々と登場する。また将来を見据えた才能として、ケンショウ・ワタナベがノミネートされているのも目を引く。横浜生まれだが、ネゼ=セガンのもとアメリカで研鑽を積み、彼の代役としてフィラデルフィア管に登場して成功を収めた。18年のセイジ・オザワ 松本フェスティバルでは日本デビューも果たしている。
次に曲目だ。まずシーズン開幕の4月にはバッティストーニがチャイコフスキーの交響曲第4番、6月は尾高が同5番をそれぞれメインに据え、また沼尻は「田園」と「大地の歌」を並べた重量感のあるプログラムを振る。7月にはチョン・ミョンフンが「新世界より」、9月にはバッティストーニが「四季」と「惑星」、10月はプレトニョフが「ファウスト交響曲」、11月にはワタナベが「巨人」と、ドラマトゥルギーのはっきりしたオーケストラ芸術の定番中の定番曲が取り上げられる。いずれの曲も情景喚起力に富んだ標題性を持っており、まさに東京フィルのオペラティックな“音で物語る力”が最大限発揮される演目といえる。
ソリストもベテランから若手まで幅広く大胆に起用している。小山実稚恵(4月:モーツァルト「ピアノ協奏曲第26番」)、舘野泉(11月:ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」)ではオケとの濃密なコミュニケーションが楽しめそう。また木嶋真優(9月:四季)を筆頭に次代のライジングスターたちも登場する。18年9月にグリーグ国際ピアノコンクールで優勝したばかりの高木竜馬は本選勝負曲のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」(6月)を、15年にシベリウス国際ヴァイオリンコンクールで優勝した韓国系アメリカ人クリステル・リーは、やはり本場からお墨付きを得たシベリウス「ヴァイオリン協奏曲」(7月)を聴かせる。
東京フィルは20年からシーズンスタートを現行の4月から1月に変更する。そのため19年は短いシーズンとなる。20年シーズンはバッティストーニ「幻想」(1月)、チョン・ミョンフン《カルメン》(2月、演奏会形式)、プレトニョフ「我が祖国」(3月)と、看板三大マエストロの超有名曲で幕を開ける。
イメージを浮かべつつ音楽を聴き、最後には感動で落涙、スカッと爽快な気分になれるラインナップ。忙しい現代社会で頑張る人々にこそ聴いてほしい、東フィルからの癒しの処方箋だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年1月号より)
※東京フィルハーモニー交響楽団 2019年シーズンの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.tpo.or.jp/