『フィデリオ』の深遠な音楽の魂はすべて、『レオノーレ』序曲第3番に集約されています。ですから今回は、『フィデリオ』序曲ではなく、その前にベートーヴェンが作曲していた『レオノーレ』序曲の第3番に立ち返ろうと思っています。最終的に採用された『フィデリオ』序曲は、第1幕前半の軽い部分に合っています。しかし特にコンサートの場合は、最高の音楽を演奏したい。それに通常の上演では第2幕のフィナーレの前にしばしば『レオノーレ』序曲が挿入されますが、私にはその意味がわかりません。まず全体の核心が込められた『レオノーレ』序曲があって、軽い曲が続いた後、本当のドラマに入っていく。そして第2幕のフロレスタンのアリアが始まると、『レオノーレ』序曲に込められていたものがわかる……といった流れが正しいと考えています。
『フィデリオ』は音楽的な充足感をもたらす作品であり、全体のフィナーレはもちろん、第1幕の短くも美しい二重唱、レオノーレのアリア、囚人たちの合唱、オーケストラの導入を含めて本作の中で最もドラマティックな第2幕のフロレスタンのアリアなど、聴きどころが多々あります。
しかし、ベートーヴェンを語るのは、人間としての真実は何かを語ることであり、話すのは容易ではありません。ただ東京フィルと私は、長い間に何回もベートーヴェンの作品を取り上げてきました。聴衆の皆様が、それを反映した今回の演奏から何らかのスピリットを聞き取ってくださると嬉しく思います」
(聞き手:柴田克彦)
【公演情報】
チョン・ミョンフン指揮
5月定期 ベートーヴェン『フィデリオ』(演奏会形式)
●第906回オーチャード定期演奏会
2018.5/6(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
●第907回サントリー定期シリーズ
2018.5/8(火)19:00 サントリーホール
●第117回東京オペラシティ定期シリーズ
2018.5/10(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:チョン・ミョンフン(東京フィル名誉音楽監督)
ベートーヴェン/歌劇『フィデリオ』
(ドイツ語上演・字幕付・全2幕・演奏会形式)
フロレスタン (テノール):ペーター・ザイフェルト
レオノーレ (ソプラノ):マヌエラ・ウール
ドン・フェルナンド(バリトン):小森輝彦
ドン・ピツァロ (バス):ルカ・ピサローニ
ロッコ(バス):フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ
マルツェリーネ(ソプラノ):シルヴィア・シュヴァルツ
ヤッキーノ(テノール):大槻孝志
合唱:東京オペラシンガーズ 他
◇定期会員券で購入すると1公演あたりのチケット料金が 約37% お得に。
詳しくは2018-19シーズン定期演奏会ラインナップページへ