【ゲネプロレポート】尽きない魅力のマスネ《エロディアード》、今週末上演!

 4月27日、28日、Bunkamuraオーチャードホールにて、東京二期会がコンチェルタンテ・シリーズ《エロディアード》を上演する。4月27日出演組の最終総稽古(ゲネラル・プローベ)を取材した。
(2019.4/25 Bunkamuraオーチャードホール 取材・文:山田真一 撮影:寺司正彦)

左:髙橋絵理(サロメ) 右:妻屋秀和(ファニュエル)

小森輝彦(エロデ)

 エロディアードは、聖人の首を欲したことで有名な踊り子サロメの母親へロデヤ。そう、これはリヒャルト・シュトラウスで有名な楽劇《サロメ》と同じ登場人物によるオペラだ。しかし、《サロメ》ではオスカー・ワイルドが原作だが、こちらは19世紀半ばの文豪ギュスターヴ・フロベールの『三つの物語』によるもので、登場人物たちの関係が異なる。サロメという人物の存在は『新聖書』や『ユダヤ古代誌』に触れられているだけで、詳細はわからない。そこでフロベールは19世紀フランスらしいロマン的な発想でユニークなドラマを創作した。《エロディアード》では、サロメと聖人ジャン(ヨハネ、ヨカナーン)は恋愛関係にある。そして母エロディアード、エロデ王との愛憎関係により物語は展開する。

 あと、重要なことは、これがグランドオペラであること。複数の形態の合唱は非常に効果的で、オーケストラもサクソフォン、ハープ、強力な金管楽器群と華やかだ。今回の上演はセミ・ステージのためバレエシーンはないが、音楽はやはり大きな魅力だ。

左より:城 宏憲(ジャン)、小森輝彦(エロデ)、板波利加(エロディアード)

左:髙橋絵理(サロメ) 右:城 宏憲(ジャン)

 物語は、ジャンに愛を告白するサロメや王宮の人物たちの登場後、サロメに関心を持つエロデ王に王妃エロディアードが嫉妬。そんな時にローマ軍がエルサレムに進攻してくる。王という責務と愛に苦悩するエロデ王の内面も含め、主要四人物の心理が等分に描かれる。聖人ジャンが処刑されるというのは同じだが、サロメの行動、そこにかかわるエロディアードとヘロデ王はシュトラウスの《サロメ》等とは異なるので、ぜひ実際に見て楽しんでもらいたい。

左:妻屋秀和(ファニュエル) 右:小森輝彦(エロデ)

 全4幕で上演時間は約2時間35分(休憩込み)。ドラマの進行が速く聴きどころが満載だ。第1幕のサロメとジャンの二重唱ではサクソフォンに乗った旋律がとても甘美。エロディアードのアリアにエロデ王、ジャンとの三重唱も中身が濃い。第2幕の出だしの王宮シーンではフルートや女声合唱が透明感を作り出す。第2幕後半で王がローマとの戦闘を決意すると勇壮な男声合唱が「傲慢なローマ人に死を」と唱い、続くローマ軍の進攻などセミ・ステージでも十分グランドオペラの醍醐味を味わえる。

妻屋秀和(ファニュエル)

左:妻屋秀和(ファニュエル) 右:板波利加(エロディアード)

 第3幕は心理面の描写が細かい一方、フィナーレでは合唱を含めた壮大な六重唱となる。第4幕でも聖人ジャンのアリアに、サロメとの緊張感ある二重唱、迫力ある男性合唱「ローマの名前に世界が震え上がる」、クライマックスの合唱を伴った重唱、と最後まで緊迫した展開が続く。《タイス》や《ウェルテル》しか知らなければ、この《エロディアード》の迫力に驚き新しいマスネを発見するだろう。

左:髙橋絵理(サロメ) 右:小森輝彦(エロデ)

左より:髙橋絵理(サロメ)、城 宏憲(ジャン)、小林啓倫(ヴィテリウス)、小森輝彦(エロデ)

 キャストは、タイトルのエロディアードがシュトラウスの《サロメ》でやはりサロメの母ヘロディアスで評判を取っている板波利加、エロデ王に日本のオペラファンにはお馴染みのベテラン小森輝彦が登場。ジャンにはいま注目を集める気鋭の城宏憲、サロメにも同じく注目の若手、髙橋絵理が美声を披露する。ディスク録音もあるフランスの巨匠ミシェル・プラッソンによる入念な練習による本番はシャープな音作りとバランスの良い歌とオーケストラを楽しめることだろう。

左より:ミシェル・プラッソン、城 宏憲(ジャン)、髙橋絵理(サロメ)


ミシェル・プラッソン


【公演情報】
東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ
《エロディアード》(新制作/セミ・ステージ形式上演)

2019年4月27日(土)17:00、4月28日(日)14:00
Bunkamuraオーチャードホール

原作:ギュスターヴ・フロベール『三つの物語』
台本:ポール・ミーリエおよびアンリ・グレモン
作曲:ジュール・マスネ

舞台構成:菊池裕美子
映像:栗山聡之
照明:大島祐夫
舞台監督:幸泉浩司

合唱:二期会合唱団
指揮:ミシェル・プラッソン
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

●配役(4月27日/28日)
ジャン:城 宏憲/渡邉公威
エロデ:小森輝彦/桝 貴志
ファニュエル:妻屋秀和/北川辰彦
ヴィテリウス:小林啓倫/藪内俊弥
大祭司:倉本晋児/水島正樹
寺院内からの声:前川健生/吉田 連
サロメ:髙橋絵理/國光ともこ
エロディアード:板波利加/池田香織
バビロニアの娘:金見美佳/徳山奈奈

●ご予約・お問合せ
二期会チケットセンター:03-3796-1831

東京二期会
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