海外で実力を磨いた未来のスター歌手たちが集結!
新進オペラ歌手の全力投球ぶりを体感したければ、2月に開催の「明日を担う音楽家による特別演奏会」に足を運んでみてはいかがだろうか。筆者も毎回必ず鑑賞するコンサートであり、海外研修を終えたばかりの若手たちの、それはフレッシュな歌声にじっくり耳を傾けていると、“音楽浴”の効果で身体がほかほかしてくるのである。この演奏会は、文化庁の新進芸術家海外研修制度の期間を終えた歌手たちの研修発表の場として設けられたもの。なにしろ、国費留学の成果が問われるだけに、彼らの緊張ぶりも半端ないが、その特別なテンションあってこそ、“歌声が放つ熱気”もより著しいものになる。気鋭の新人勢にとっては、まさしく、“一生に一度”の晴れ舞台といっても過言でないだろう。出演は清野友香莉、今野沙知恵、種谷典子(以上、ソプラノ)、藤井麻美(メゾソプラノ)、伊藤達人、小堀勇介(以上、テノール)、原田勇雅(ゆうや)、門間信樹(以上、バリトン)の8名。バックは大勝秀也指揮の東京フィル。
今回のプログラムでまず目を引くのは選曲の多彩さである。何しろ、ロッシーニの《セビリアの理髪師》のようなベルカント・オペラから、ジョルダーノの《アンドレア・シェニエ》といった激情的なイタリア・オペラ、さらには《ラクメ》のような抒情的なフランス・オペラに加えて、この種の演奏会では珍しいワーグナーも歌われるほか、20世紀のプーランクの人気曲やストラヴィンスキーの英語のアリアまで聴けるというから期待大である。
オーケストラ伴奏のもと、こうした幅広い曲目で、若き歌手たちが美声と表現力を駆使するさまはやはり見逃せないだろう。知っているメロディを楽しむ心と、新しい曲への好奇心も、共に満たされるに違いない。
文:岸 純信(オペラ研究家)
■出演者メッセージ
●清野 友香莉 ソプラノ(平成27年度・ニュルンベルク)
ニュルンベルクという歴史ある町での研修は忘れがたい、とても貴重な時間でした。私を快く受け入れ、指導してくださったマリア・カヴァッツァ先生は、楽譜に書かれた平面的に見える音符をどのように立体的に表現できるかを、あらゆる知識をもって私に伝えてくださいました。今回歌わせていただきます「鐘の歌」は歌詞のないヴォカリーズで始まります。ラクメの感情をヴォカリーズのみでどこまで表現できるのか、自分自身への挑戦として選曲いたしました。いつか『ランメルモールのルチア』や『マノン』、『ハムレット』のオフィーリアといった、命をかけた愛に生きる女性を演じたいと強く思っております。最後に、こうした素晴らしい演奏会に出演させていただけますこと、そして充実した研修生活を支えてくださった皆様方に、この場をかりて心より感謝申し上げます。
【演奏曲目(予定)】
ドリーブ『ラクメ』より 「若いインドの娘はどこへ」
【Profile】
東京都出身。国立音楽大学卒業、同大学院修了後、ウィーンへ留学。新国立劇場オペラ研修所修了。文化庁新進芸術家海外派遣研修員としてドイツ、ニュルンベルクにて研鑽を積む。これまでに《ドン・ジョヴァンニ》ツェルリーナ、《コジ・ファン・トゥッテ》デスピーナ、《魔笛》夜の女王、《ラ・ボエーム》ムゼッタ、《なりゆき泥棒》ベレニーチェ、フレンチバロック《レ・パラダン》ネリーヌ等で出演。その他には新国立劇場《カルメン》フラスキータのカヴァーキャストを務め、東京二期会では2016年《ナクソス島のアリアドネ》(シモーネ・ヤング指揮、カロリーネ・グルーバー演出)ツェルビネッタでデビュー。17年同『こうもり』(アンドレアス・ホモキ演出)アデーレでも好評を博す。二期会会員。
●今野 沙知恵 ソプラノ(平成26年度・ニュルンベルク)
ニュルンベルクでの研修は、充実し、また自身の新境地を開いた1年でした。恩師のマリア・デ・フランチェスカ=カヴァッツァ先生の下でドイツ古典派、特にモーツァルトのオペラを中心に取り組みました。発声技術から音楽性などを教わり、表現力を高める事に尽力致しました。
さて、この度演奏致しますソロの曲は20世紀に作曲されたアリアです。この曲は研修終盤にカヴァッツァ先生の勧めで取り組む事になりました。この様な曲を演奏する際も基盤にはモーツァルトを演奏する際の技術が必要である事、またこの役が自身のレパートリーの一つになる事に気づく事が出来ました。研修の経験を糧に、今後も聴き手の心に届く演奏をする歌手を目標に精進致します。
【演奏曲目(予定)】
ストラヴィンスキー『放蕩児の遍歴』より「トムからの便りもない」
【Profile】
宮城県仙台市出身。桐朋学園大学音楽学部声楽専攻を首席で卒業、同大学研究科を修了。交換留学生としてイタリア・ローマのサンタ・チェチーリア音楽院に留学。新国立劇場オペラ研修所第14期修了。平成26年度文化庁在外派遣研修員としてドイツ・ニュルンベルクに留学。2016年PMFにてマーラー「交響曲第四番」ソプラノソリスト、2017年仙台クラシックフェスティバルでシュトラウス「春の声」の気品に溢れた演奏で高評を博した。東京都交響楽団カルテットの離島でのコンサートに積極的に参加し、ヘンデル「メサイア」、ベートーヴェン「交響曲第九番」等も各地で好評を得ている。今年は東京・春・音楽祭《ローエングリン》小姓Ⅰ役、日生劇場《魔笛》パパゲーナ役等で出演予定。第85回日本音楽コンクール声楽(歌曲)部門第3位受賞。
●種谷 典子 ソプラノ(平成28年度・ルガーノ)
歌唱技術向上を目指し、妥協のないレッスンに心が折れかけながら、必死に喰らい付く日々。言葉も未熟で、声も萎縮していた中で、自身を解き放つことができたのが『ティレジアスの乳房』でした。研修中も緊張感のあるコンサートやコンクールで幾度となく私を助けてくれたこの曲。そんなある意味慣れている曲ですが、歌い込んだからこそついてしまった余計なものを極限まで削ぎ落とし、言葉と音楽を純粋に伝えることのできるよう、最後まで妥協を許さない師と取り組んできました。このアリアは、私の調子を確認する曲のひとつになっているように思います。この作品だけでなく、これから取り組むもの全てに丁寧に向き合いたいと考えています。
【演奏曲目(予定)】
プーランク『ティレジアスの乳房』より「いいえ、旦那様」
【Profile】
広島県出身。国立音楽大学声楽専修及び同大学院声楽専攻を首席で卒業。学部卒業時に武岡賞、大学院終了時に声楽専攻最優秀賞宮内庁主催桃華楽堂新人演奏会に出演。新国立劇場オペラ研修所第16期修了。平成28年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員としてイタリア・ミラノ及びスイス・ルガーノにて研鑽を積む。オペラでは《ナクソス島のアリアドネ》ナヤーデ、《なりゆき泥棒》ベレニーチェ、《ドン・パスクワーレ》ノリーナ、《フィガロの結婚》スザンナ等演じる。第24回リッカルド・ザンドナイ国際コンクールに於いてTokyo Metropolitan Opera Foundation賞を受賞。第36回ハンスガポアベルヴェデーレ国際コンクールローマ代表、ロシア・モスクワ本選セミファイナリスト。二期会会員。
●藤井 麻美 メゾソプラノ(成28年度ペーザロ)
一年間のイタリア・ペーザロでの研修は、Inga Balabanova、Carlo Morganti両氏のもとモーツァルト、ロッシーニ、ベッリーニを中心に毎日研鑽を積みました。
その中で、沢山のコンクールやオーディションに挑戦できた事が実を結び、賞の受賞及び翌年のイタリア内劇場や音楽祭での役をいただくことができました。
夏にマチェラータ音楽祭に携われた事や、様々な国の歌手と出会えた事も良い刺激となりました。イタリアの芸術や文化、人、全てが自分を成長させてくれました。
今回の研修を糧に、どんな役柄も説得力を持って演じられる魅力あるオペラ歌手へと更に成長していきたいです。
このような貴重な研修を出来ましたのも、新進芸術家海外研修制度があり、ご指導やご協力、応援をして下さった方々のお蔭と心より感謝しております。
【演奏曲目(予定)】
ロッシーニ『セビリアの理髪師』より「今の歌声は」
【Profile】
洗足学園音楽大学声楽科卒業、同大学大学院修了。新国立劇場オペラ研修所第15期修了。平成28年度文化庁新進芸術家海外派遣制度研修員。「Riccardo Zandonai国際オペラコンクール2017」にて入選。「Teatro Besostri di Mede国際コンクール2017」にて“Vincitrice del ruolo di SUZUKI”を受賞。「Opera Pienza Benvenuto Franci国際オペラコンクール2017」にて“Premio Comune di Trequanda”を受賞。《コジ・ファン・トゥッテ》ドラベッラ、《魔笛》侍女Ⅲ、《ナクソス島のアリアドネ》、ドリヤーデ《結婚手形》、クラリーナ《成り行き泥棒》、エルネスティーナ《フィガロの結婚》、マルチェリーナ《カヴァレリア・ルスティカーナ》サントゥッツァ役にて出演。ドヴォルザーク「ニ長調ミサ」、ラター「グローリア」のアルトソリスト、セイジオザワ・松本フェスティバル2015において、ベートーヴェン「交響曲第9番」のアルトソリストを務める。二期会会員。
●伊藤 達人 テノール(平成28年度・ベルリン)
2016年12月、クリスマスのテロ直後の暗く寒いベルリンで研修生活が始まりました。
渡独当初、孤独感や不安で心が折れそうにもなりましたが、多くの出会いに助けられ充実した1年を送ることができました。ベルリンでの生活は、30年間日本で生活してきた私には刺激的な時間であり、とても貴重な機会になりました。そこで得た感動や経験を忘れることなく、これからの日本のオペラ界を盛り上げていける歌い手になっていきたいと思います。
研修ではユーゲントヘルデンテールのロールを中心に勉強してまいりました。その成果をお聴きいただきたく、本日はローエングリンのアリアを歌わせていただきます。
【演奏曲目(予定)】
ワーグナー『ローエングリン』より 「はるか遠い国に」
【Profile】
福島県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学大学院修士課程声楽専攻修了。新国立劇場オペラ研修所第14期修了。文化庁新進芸術家海外留学制度奨学金を得て2016年12月から一年間ドイツ・ベルリンにて研修。オペラを中心に活動。これまでに、《魔笛》タミーノ、武士Ⅰ、《リタ》ベッペ、《フィレンツェの悲劇》グイード、《ナクソス島のアリアドネ》テノール歌手/バッカス、スカラムッチョ、《魔弾の射手(演奏会形式)》マックス等を歌う。2016年二期会《ナクソス島のアリアドネ》ブリゲッラ役で二期会オペラデビュー。オペラ以外に、15年新国立劇場演劇制作ミュージカル『パッション』トラッソ中尉役で出演の他、ベートーヴェン「第9番」、オルフ《カルミナ・ブラーナ》等のソリストを務める。二期会会員。
●小堀 勇介 テノール(平成27年度・ボローニャ)
私が今回の研修で最も力を入れたのはイタリア・オペラの伝統的歌唱法であるベル・カント唱法の修得でした。ボローニャでは師匠からロッシーニ作品を演奏する為に必要な技術の修練に明け暮れ、ペーザロでは故アルベルト・ゼッダ先生の下で音楽そのものに対する見識を深めることができました。本日演奏する曲はそれら全ての研修成果を披露する為に最も相応しいものです。
昨年はコンクールへの入賞を果たし、フランスやイタリアで歌う機会にも恵まれ、充実していたと同時に新たな課題も見つかりました。今後は自身のロッシーニ演奏に更なる磨きをかけ、世界の舞台で評価されるオペラ歌手になるべく活動を続けます。今後とも温かくお見守りください。
【演奏曲目(予定)】
ロッシーニ『オテロ』より 「どうして聞き入れてくれないのだ」
【Profile】
国立音楽大学音楽学部声楽専攻ならびに同大学院音楽研究科声楽専修オペラ・コースを首席で修了。宮内庁主催の桃華楽堂新人演奏会に出演。新国立劇場オペラ研修所第15期修了。同所在籍中に第7回静岡国際オペラコンクールにて、入選ならびに三浦環特別賞を受賞。文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間イタリアのボローニャへ留学。同期間中にアカデミア・ロッシニアーナ2016、ロッシーニ・オペラ・アカデミー2016へ参加し、指揮の故アルベルト・ゼッダ氏から直々に教えを受ける。帰国直前にオーストリアのチロル祝祭歌劇場公演《アルジェのイタリア女》のリンドーロで本格的なヨーロッパ・デビューを果たす。第36回飯塚新人音楽コンクールにて声楽部門第1位を受賞。これまでに声楽を福井敬、セルジョ・ベルトッキの各氏に師事。日本ロッシーニ協会会員。
●原田 勇雅 バリトン(平成27年度・パルマ)
【演奏曲目(予定)】
ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』より「祖国の敵」
【Profile】
埼玉県出身。イタリア国立パルマ音楽院大学院課程最優秀(満点)の成績で修了。全日本学生音楽コンクール(大学・一般の部)第1位。都築音楽賞、日本放送協会賞受賞。イタリア声楽コンコルソ第1位、シエナ大賞。友愛ドイツリートコンクール第3位、聴衆賞。ペリッツォーニ国際声楽コンクール第3位多数の音楽賞を受賞。在学中より藝大《メサイア》、《第九》、モーツァルト、フォーレ《レクイエム》ブルックナー《テ・デウム》等多数出演。オペラでは《フィガロの結婚》《魔笛》《椿姫》《電話》《こうもり》《ゼッキンゲンのトランペット吹き》等で主役を演じ、劇音楽《ペール・ギュント》、オーケストラ・アンサンブル金沢「ベートーヴェン物語」、熊谷市文化振興財団「モーツァルト物語」等で主演。アメリカ、ドイツ等でも研修を行い、IVAI主催によるオペラソリストオーディションに合格、「ヴァージニア芸術祭」にソリストとして出演。イタリアでは世界文化遺産「テアトロ・オリンピコ」、ヴェルディの墓前でのコンサートに出演した。《リゴレット》リゴレット役でパルマ・サルソマッジョーレ新劇場やトスカーナなどで主演したほか、「ヴェルディ・フェスティバル」特別コンサートにも出演。《ジャンニ・スキッキ》ジャンニ・スキッキ役、《蝶々夫人》シャープレス役を好演し、《椿姫》ジェルモン役をパルマ・カルミネ公会堂等で好演。日本声楽アカデミー会員。二期会会員。
●門間 信樹 バリトン(平成26年度・ニューヨーク)
2012年に渡米し、文化庁の海外研修制度の期間を含め在米6年目を迎えようとしています。研修先となったマネス音楽院ではレッスン、音楽解釈はもとより、フィジカルなトレーニング、舞台語発音の授業も受講。もともと独仏英語の発音は得意としていましたが、よりアカデミックに理解することを求められるため、自然でかつ舞台語として相応しい発音を徹底して学びました。今回も仏語の歌を選んだので、培ったものを発揮できたらと思います。ヨーロッパが研修先として選ばれる事が多い中、私はアメリカが肌に合っているのでしょうか、予定より長く滞在していますが、今後は日本での活動も増やし、音楽的にも人間的にもあちこちで歓迎される歌手でありたいと思っています。
【演奏曲目(予定)】
マスネ 『エロディアード』より「儚い幻影」
【Profile】
東京藝術大学声楽科卒業、同大学院修士課程修了。2010年、二期会オペラ研修所マスタークラスを首席にて修了。修了時に最優秀賞および川﨑靜子賞を受賞。12年より明治安田生命文化財団より助成を受けニューヨークへ留学、マネス音楽大学ディプロマコースにて研鑽を積む。16年、ディプロマコース閉講により中退。現在は東京とニューヨークで活動を続けている。これまでに《ラ・カリスト》ジョーヴェ役、《ダイドーとエネアス》エネアス役、《仮面舞踏会》レナート役、《椿姫》ジェルモン役、《ラ・ボエーム》マルチェッロ役、《ジャンニ・スキッキ》タイトルロール、《電話》ベン役などを演じ、16年に参加したデラルテオペラ・サマーフェスティバルにてMarty Jeiven賞を受賞した。二期会会員。
【公演情報】
2018.2/6(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:チケットスペース03-3234-9999
http://www.ints.co.jp/
【演奏曲目(予定)】
清野 友香莉:ドリーブ『ラクメ』より 「若いインドの娘はどこへ」
今野 沙知恵:ストラヴィンスキー『放蕩児の遍歴』より「トムからの便りもない」
種谷 典子:プーランク『ティレジアスの乳房』より「いいえ、旦那様」
藤井 麻美:ロッシーニ『セビリアの理髪師』より「今の歌声は」
伊藤 達人:ワーグナー『ローエングリン』より 「はるか遠い国に」
小堀 勇介:ロッシーニ『オテロ』より 「どうして聞き入れてくれないのだ」
原田 勇雅:ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』より「祖国の敵」
門間 信樹:マスネ 『エロディアード』より「儚い幻影」