ウィーン・オペレッタの最高傑作『こうもり』

どの歌もどの場面もウィットにあふれた楽しさ!
ウィーン・オペレッタの最高傑作『こうもり』

Photos:Dimo Dimov / Barbara Pálffy / Volksoper Wien

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 ヨハン・シュトラウス2世作曲の『こうもり』は、だれもが認めるウィーン・オペレッタの最高傑作。ワルツ王シュトラウスのノリにノッた音楽のすばらしさもさることながら、ストーリーもとびきり良くできていて、楽しいことこの上ない。
 舞台は初演(1874年)当時のウィーン近郊の温泉地。カネとヒマを持て余しているロシアの侯爵が開催する豪華な夜会に、すこぶるキャラの立った人物たちが招待されて集まる。彼らはみな、そこでいつもとは違う自分になろうとする。浮気な亭主アイゼンシュタインはフランスの貴族に、その女房ロザリンデはハンガリーの貴婦人に、彼らの家の小間使いアデーレは売り出し中の女優に、こわもての刑務所長フランクはフランスの粋な紳士に、といった具合。
 仮面劇となりすましの中で、「フランス貴族」は自分の女房とも知らずに「ハンガリーの貴婦人」を口説こうとして、やがて手痛いしっぺ返しを食らうことになる。すべては、かつてアイゼンシュタインに大恥をかかされてリベンジの機会を窺う、「こうもり博士」ことファルケ博士の周到なたくらみだったのだ…。
 シュトラウスの音楽のすばらしさは、ワクワクさせる序曲からしてすでにきわ立っている。幕が開けば、どの歌もどの場面もウィットにあふれ、スパイスも効いて極めつけの楽しさだ。ロザリンデを口説く声楽教師アルフレートの殺し文句は「憂さを忘れて幸せに!」。そして、夜会の合い言葉は「とことん楽しめ!」。
 栄華をきわめたハプスブルク大帝国も、『こうもり』の時代には衰退へと向かいつつあった。豪華な夜会に憂さを忘れて陶酔し、「いつまでも今日のように!」と切望する享楽への耽溺のなかに、そこはかとないメランコリーがしのび込む。ウィーンの音楽と芝居の楽しさがこの上なく見事に結合した『こうもり』の魅惑は、ただめっぽう愉快なだけではない、なかなかに奥深いものなのだ。
文:田辺秀樹(音楽評論家)

J.シュトラウスⅡ作曲
『こうもり』
指揮:アルフレート・エシュヴェ/ゲーリット・プリースニッツ
演出:ハインツ・ツェドニク
5月19日(木) 6:30p.m.
5月20日(金) 6:30p.m.
5月21日(土) 2:00p.m.
5月22日(日) 2:00p.m.
会場:東京文化会館

■予定される主な配役
アイゼンシュタイン:イェルク・シュナイダー(5/19,21)、カルステン・ズュース(5/20,22)
ロザリンデ:メルバ・ラモス(5/19,21)、エリーザベト・フレヒル(5/20,22) 
アデーレ:アニヤ=ニーナ・バーマン(5/19,22)、レベッカ・ネルセン(5/20)、ベアーテ・リッター(5/21)
オルロフスキー:アンゲリカ・キルヒシュラーガー(5/19,20,22)、マルティナ・ミケリック(5/21)
アルフレート:ライナー・トロスト(5/19,20,22)、ヴィンセント・シルマッハー(5/21)
フロッシュ:ロベルト・マイヤー  
ほか

*表記のキャストは2015年10月25日現在の予定です。


Photos:Dimo Dimov / Barbara Pálffy / Volksoper Wien

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