桜井万祐子(メゾソプラノ) インタビュー

《カルメン》タイトル・ロールで日本デビューを果たす注目の逸材


カルメンは運命の役

C)Naoya Yamaguchi

 藤原歌劇団が、12回目を迎える〈川崎・しんゆり芸術祭(アルテリッカしんゆり)〉でビゼーの傑作歌劇《カルメン》を上演する。ダブルキャストのタイトルロールのひとりに選ばれたのが、これが藤原デビューとなるミラノ在住のメゾソプラノ桜井万祐子だ。

 名古屋芸術大学の卒業公演での初オペラがカルメンだったそうで、その時のパフォーマンスがイタリア留学に繋がった。その後、スペインのセヴィリアやドイツでのオペラ・クラシカ・ヨーロッパ、またイタリア各地などで数え切れないほどカルメンを歌ってきたという。

「カルメンという役がなければ、今の自分はいなかった」と語る桜井は、カルメンをどんな女性だととらえているのだろうか。
「私の解釈はとてもシンプルで、自分の信念に従って生きている女性だ、というものです。その中でも特に重要なのが自由で、もし自由を失えば死ぬしかない。だから、オペラのラストはあの結末しかなかったのかもしれません」

 劇中、カルメンは〈ハバネラ〉〈セギディーリャ〉〈カルタの歌〉という3つの重要なアリアを歌うが、桜井がいちばん好きなのは〈カルタの歌〉だ。
「大きな運命に従うというカルメンの覚悟に共感を覚えるのです。カルメンの“自由”というのは、自分勝手に生きるということではありません。それは、人間が作り出したルールには縛られないという意味での“自由”であって、むしろ彼女は人間社会の外側にある大きな運命の中で生きている。これは、現実のロマの人たちの生き方そのもので、私たち日本人にはない考え方ではないでしょうか」


いかに日本人から離れるか

 桜井がヨーロッパでカルメンを演じる際にもっとも苦労したのが、この「日本人とはまったく違う価値観」をどうやって表現するか、ということだった。自分の中でいかに日本人を捨てられるか、が大きな壁だったと語る。例えば座り方ひとつとっても足を広げて座る、男性を誘惑するのも非常に直接的だったり、といった風に、ある種日本ではタブーとされている動作が必要。そのために、同僚のイタリア人やスペイン人女性の所作を参考にしたり、時にはヒョウや猫の動きを観察して「見せ方」を作り上げていったのだという。
 
 今回の《カルメン》は、2017年に初演された岩田達宗の演出によるプロダクション。真っ赤な月が掲げられた神秘的な舞台に、桜井はヨーロッパが歩んできた血の歴史や、大地を踏みしめて生きるロマの女性像を感じるそうだ。
 単身イタリアに渡ってから10年以上、自力で道を切り拓いてきたという桜井の生き方は、どこかカルメンにも通じるものがある。本場で活躍する大型メゾソプラノの演じるカルメンに、期待は高まるばかりだ。
取材・文:室田尚子


Information
藤原歌劇団《カルメン》

2020.4/25(土)、4/26(日)、4/・29(水・祝)各日14:00
テアトロ・ジーリオ・ショウワ

総監督:折江忠道

指揮:鈴木恵里奈
演出:岩田達宗

美術:増田寿子
衣裳:半田悦子
照明:大島祐夫
振付:平 富恵


●キャスト

カルメン:桜井万祐子(4/25,4/29) 二瓶純子(4/26)
ドン・ホセ:藤田卓也(4/25,4/29) 澤﨑一了(4/26)
エスカミーリョ:井出壮志朗(4/25,4/29) 市川宥一郎(4/26)
ミカエラ:伊藤 晴(4/25,4/29) 石岡幸恵(4/26)
ズニガ:東原貞彦(4/25,4/29) 泉 良平(4/26)
モラレス:和下田大典(4/25,4/29) 大野浩司(4/26)
フラスキータ:山口佳子(4/25,4/29) 楠野麻衣(4/26)
メルセデス:増田 弓(4/25,4/29) 北薗彩佳(4/26)
ダンカイロ:押川浩士(4/25,4/29) 角田和弘(4/26)
レメンダード:曽我雄一(4/25,4/29) 山内政幸(4/26)

合唱:藤原歌劇団合唱部、桐光学園高等学校合唱部
児童合唱:昭和音楽大学附属教室合唱団
舞踊:平富恵スペイン舞踊団
管弦楽:テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ

問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
https://www.jof.or.jp/performance/2004_carmen/