オペラ《貞節の勝利》見どころ聴きどころ

誰でもが楽しめるバロックオペラの傑作

 人の心をさらっと掬い取るオペラは、一度忘れられようとも必ず復活を遂げるもの。18世紀前半のイタリアの大作曲家、アレッサンドロ・スカルラッティが1718年にナポリで初演した《貞節の勝利》もその好例である。

 このオペラ、題名は堅苦しいが内容は喜劇で音楽も聴きやすい。注目すべきは、モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》と似た筋ながら、女性をかどわかすドン・ファン的青年が、最後には改心するところ。地獄落ちもなく、彼がアリアでしみじみ悔い改めたのち、大団円で幕となる。

 本作では声の配分も興味深い。青年リッカルドは男装したソプラノ、最後に彼と結ばれる娘レオノーラはメゾソプラノ、青年のおじフラミーニオはテノール、娘の兄エルミーニオはカストラート、脇を固める熟女コルネーリアはテノールが女装して初演した。オペラ史では基本的に「カストラートは喜劇に出ない」ので、珍しい例外になる。代わりにカウンターテナーの声で聴きとるのも面白いだろう。

 《貞節の勝利》は初演時に18回も上演されたが、蘇演は20世紀初頭。名指揮者ジュリーニが1950年に録音を敢行した。しかし、そちらは楽譜通りに声を割り当てなかったので、11月の日本初演でやっと、作曲者の原意に近い声種で作品を楽しめる。しかも、今回の公演は、藤原歌劇団とヴァッレ・ディトリア(マルティーナ・フランカ)音楽祭と提携し、「ベルカントオペラフェスティヴァル・イン・ジャパン2019 」と題して行われる特別なもの。それだけに、歌手は日本とイタリアの混成チームであり、豊かな響きの迫田美帆(リッカルド)、柔和な米谷朋子(レオノーラ)、喉の技を誇る小堀勇介(フラミーニオ)など若手の第一線も勢ぞろい。公演が待ち遠しい。
文:岸 純信(オペラ研究家)

左より:アントニオ・グレーコ(指揮)、ジャコモ・フェッラウ(演出)、リーベロ・ステッルーティ(演出)


ベルカントオペラフェスティバル イン ジャパン2019 
アレッサンドロ・スカルラッティ:オペラ《貞節の勝利》

(全3幕・字幕付き原語上演・ニュープロダクション)

2019.11/15(金)、11/17(日)各日14:00 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

指揮:アントニオ・グレーコ
演出:ジャコモ・フェッラウ&リーベロ・ステッルーティ
管弦楽:ベルカントオペラフェスティバル管弦楽団

出演:
リッカルド・アルベノーリ:迫田美帆
レオノーラ・ドリーニ:米谷朋子
エルミーニオ:ラッファエーレ・ペー
ドラリーチェ・ロッセッティ:伊藤 晴
フラミーニオ・カストラヴァッカ:小堀勇介
コルネーリア・ブッファッチ:山内政幸
ロジーナ・カルッチャ:但馬由香
ロディマルテ・ボンバルダ隊長:パトリーツィオ・ラ・プラーカ

問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
https://www.jof.or.jp/performance/1911_BOF_Trionfo/


ベルカントオペラフェスティバル イン ジャパン2019 関連イベント

◎バロックコンサート
2019.11/16(土)14:00 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

出演 
藤木大地(カウンターテナー)
光岡暁恵(ソプラノ)
アントニオ・グレーコ(指揮とチェンバロ)
BOFバロックアンサンブル
演目:ヘンデル《リナルド》《セルセ》/ヴィヴァルディ《バヤゼット》からのアリア


◎ベルカント・コンサート
2019.11/11(月)18:00 ユリホール(昭和音楽大学南校舎5階)

入場無料(要整理券)

出演予定:マスタークラス受講生による


◎ベルカント・シンポジウム「バロックオペラ・ナポリ楽派」
2019.11/14(木)18:00 ユリホール(昭和音楽大学南校舎5階)

入場無料(要整理券)

登壇予定
ジャンカルロ・ランディーニ(評論家)
エヴァ・プロイス(評論家)
カルメン・サントーロ(BOF芸術監督)
折江忠道(藤原歌劇団総監督)

問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
https://www.jof.or.jp/performance/1911_BOF_Trionfo/event.php
*関連イベントの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。