ソロの妙技と演技、
そして華麗なアンサンブルの醍醐味きかせる高水準の舞台
《ランスへの旅》は、ロッシーニがフランス国王シャルル10世の戴冠祝賀行事のために作曲したカンタータ。作曲から159年経った1984年に、ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバルで「オペラ」として復活上演され、その後世界の歌劇場のレパートリーになった。藤原歌劇団がこの作品を上演するのはこれが3回目。今回は、2015年に好評を博した松本重孝演出の舞台の再演となる。公演は9月5日、6日、7日、8日の4日間。砂川涼子他が出演する5日・7日組の最終総稽古(ゲネラルプローベ)を取材した。今回は休憩1回入れての2部構成での上演。
(2019.9/3 新国立劇場 取材・文:室田尚子 Photo:Lasp Inc.)
この作品の魅力は何といっても、総勢14名を超えるスター歌手がズラリと勢揃いし、それぞれにキラリと光るアリアや重唱を披露すること。今回は、藤原歌劇団だけでなく、東京二期会など国内の名だたるベルカント・オペラの名手が集結。また合唱も、藤原歌劇団・東京二期会・新国立劇場の混成メンバーで、実に華やか、かつ力のあるプロダクションとなっている。
「全編これ見せ場」といってもいいような作品だが、まず第1幕では、オシャレに命をかけているフォルヴィル伯爵夫人が歌う大アリア〈私だって出発したいですわ〜神様、感謝します〉に注目。ソプラノ・レッジェーロの超絶技巧が存分に盛り込まれた10分を超える曲を、佐藤美枝子が高らかに歌い上げる。コケティッシュな演技も絶妙で、客席の注目を集める実力はさすがだ。
ポーランドのメリベーア侯爵夫人をめぐって恋のさや当てを演じるのは、スペイン大公ドン・アルヴァーロとロシアのリーベンスコフ伯爵。チャーミングな才女であるメリベーアを歌う中島郁子は安定感のあるアジリタが心地よい。須藤慎吾のドン・アルヴァーロはエスカミーリョを思わせる男前。繊細な小堀勇介のリーベンスコフは高音を響かせて〈何と不実な女だ〉を歌う。
ローマの女流詩人コリンナを歌うのは、前回・前々回とこの役を歌っている砂川涼子。気高く美しいコリンナのアリアは2曲あるが、いずれもハープの伴奏によって歌われる即興性の高い曲。細やかな装飾が施された中、音楽全体に流れる抒情性を実にていねいに表現する。
そのコリンナを口説くのがフランスの騎士ベルフィオーレ。どちらかというと生真面目な役が多かった中井亮一が、いやらしい女たらしの演技全開で迫る。中井がこんなに喜劇の才能のある人だったとは!と舌を巻いた。大注目である。
第1部フィナーレは、ソリスト14人による大コンチェルタート〈ああ、何と思いがけないことが〉。各歌手がこれでもか、と声を響かせつつハーモニーを紡ぎ上げていく様は見事としか言いようがない。
また、第2部の晩餐会の場面では、各登場人物がドイツ、ポーランド、ロシア、スペイン、イギリス、フランスとそれぞれの出身地にちなんだお祝いの歌を歌うのだが、衣裳とともに国旗が登場したりして、見た目にも楽しいシーンだ。
指揮は“ロッシーニ巧者”の園田隆一郎。歌手の呼吸に巧みに合わせつつ、音楽のドライブ感をコントロールする手綱さばきが光る。オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。「声の競演」を楽しむのにこれほどうってつけの作品はない。オペラ好きは何をおいても駆けつけるべき作品である。
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●interview 園田隆一郎(指揮)× 砂川涼子(ソプラノ)
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【Information】
藤原歌劇団公演(共催:新国立劇場・東京二期会)
ロッシーニ:オペラ《ランスへの旅》(字幕付き原語上演)
指揮:園田隆一郎 演出:松本重孝
合唱:藤原歌劇団合唱部、新国立劇場合唱団、二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
配役
コリンナ:砂川涼子(9/5,9/7) 光岡暁恵(9/6,9/8)
メリベーア侯爵夫人:中島郁子(9/5,9/7) 富岡明子(9/6,9/8)
フォルヴィル伯爵夫人:佐藤美枝子(9/5,9/7) 横前奈緒(9/6,9/8)
コルテーゼ夫人:山口佳子(9/5,9/7) 坂口裕子(9/6,9/8)
騎士ベルフィオーレ:中井亮一(9/5,9/7) 糸賀修平(9/6,9/8)
リーベンスコフ伯爵:小堀勇介(9/5,9/7) 山本康寛(9/6,9/8)
シドニー卿:伊藤貴之(9/5,9/7) 小野寺 光(9/6,9/8)
ドン・プロフォンド:久保田真澄(9/5,9/7) 押川浩士(9/6,9/8)
トロンボノク男爵:谷 友博(9/5,9/7) 折江忠道(9/6,9/8)
ドン・アルヴァーロ:須藤慎吾(9/5,9/7) 上江隼人(9/6,9/8)
ドン・プルデンツィオ:三浦克次(9/5,9/7) 田島達也(9/6,9/8) 他
2019.9/5(木)、9/6(金)、9/7(土)、9/8(日) 各日14:00
新国立劇場オペラパレス
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
https://www.jof.or.jp/