【ゲネプロレポート】藤原歌劇団《ラ・トラヴィアータ》

3人のソプラノがヴィオレッタで華麗なる競演

 《ラ・トラヴィアータ》は、藤原歌劇団が1990年代から2006年にかけて毎年のように「ニューイヤー・スペシャル・オペラ」として上演してきた、いわば十八番の演目。今回は演出に粟國淳を迎えたニュー・プロダクションで臨む。ヴェルディ唯一のプリマドンナ・オペラといわれる今作は、主人公ヴィオレッタが音楽的中心となるが、今回は何と、砂川涼子(1/25)、伊藤晴(1/26)、光岡暁恵(1/27)という現在の藤原歌劇団を代表するプリマドンナによるトリプルキャスト。1/22から1/24に東京文化会館で行われたGP取材を通して、三者三様のヴィオレッタ像が浮かび上がってきた。指揮は佐藤正浩、管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団。
(2019.1/22〜24 東京文化会館 Photo:Lasp Inc.)

 ベルカント・オペラに才能を発揮してきた光岡暁恵のヴィオレッタは、どこまでも生真面目で悲しい女性だ。第1幕、華やかな夜会のシーンで、その名の通り「Viola(紫色)」のドレスを身にまといながら、ヴィオレッタだけが周囲と違う存在に見えたのは、光岡の声の透明感ゆえだろう。有名なアリア〈ああ、そはかの人か〜花から花へ〉では、丁寧で正確なコロラトゥーラと、最高音であるEsまで楽々と出し切る安定した歌唱が光る。

中央:光岡暁恵(ヴィオレッタ)

光岡暁恵(ヴィオレッタ)

 新進気鋭の伊藤晴のヴィオレッタが、3人の中で最もコケティッシュに聴こえたのも面白い。持ち前の幅のある歌声がヴィオレッタの「女性性」を前面に押し出す役割を果たしている。第2幕では、ジェルモン(ベテラン折江忠道が大変いい味を出している)との対話の中で、女性としてのヴィオレッタが弱く、力のない存在であることが露わになる。その悲劇を伊藤はこれでもかと表現していた。

左:伊藤 晴(ヴィオレッタ)、右:折江忠道(ジェルモン)

前方左:澤﨑一了(アルフレード)、中央:折江忠道(ジェルモン)、右:伊藤 晴(ヴィオレッタ)

 砂川涼子のヴィオレッタからは、強さと気品を感じた。快楽の世界で生きる高級娼婦だが、その運命さえも受け入れて力強く生きている女性。第3幕、死を目前にして歌われるアリア〈さようなら、過ぎ去った日々よ〉では、死にゆく運命を嘆きつつも最後まで自分を失わない強さをみせる。ドラマティックでありながら、細やかな感情表現に長けた歌唱は、砂川が現在、歌い手として絶頂期にあることの証明だろう。

砂川涼子(ヴィオレッタ)

左:西村 悟(アルフレード)、右:砂川涼子(ヴィオレッタ)

 粟國演出は、ヴィオレッタという女性の“孤独”に焦点を当てているようだ。序曲が始まると舞台上にヴィオレッタの肖像画が現れるが、幕が上がるとそれは人々の姿を映し出す鏡へと変化する。さらに全3幕を通して大きな女性の肖像画が据えられ、それが照明によってシースルーになる仕掛け。女性の絵画に囲まれて進行するドラマは、もちろん「ラ・トラヴィアータ(道を踏み外した女)」であるヴィオレッタの“孤独”を描いていくが、同時に、「女性」そのものの持つ“孤独”をも描き出そうとしているかのようだった。
取材・文:室田尚子

舞台上にヴィオレッタの肖像画

【Information】
藤原歌劇団公演 ヴェルディ 歌劇《ラ・トラヴィアータ》

2019.1/25(金)18:30、1/26(土)14:00、1/27(日)14:00
東京文化会館

指揮:佐藤正浩 演出:粟國 淳
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 合唱:藤原歌劇団合唱部

出演
ヴィオレッタ:砂川涼子(1/25) 伊藤 晴(1/26) 光岡暁恵(1/27)
アルフレード:西村 悟(1/25) 澤﨑一了(1/26) 中井亮一(1/27)
ジェルモン:牧野正人(1/25) 折江忠道(1/26) 上江隼人(1/27)
フローラ:丹呉由利子(1/25,27) 髙橋未来子(1/26)
ガストン:松浦 健(1/25,27) 真野郁夫(1/26)
アンニーナ:牧野真由美(1/25,27) 鈴木美也子(1/26) 他

問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
http://www.jof.or.jp/