生誕250年のベートーヴェン企画。こういう「全曲もの」はなんだかお得な気がしてうれしい。実際、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲は、通常番号付きで示される7曲だけをとっても、ウィーン初期から、後期の入口までの創作様式の軌跡をたどることができるため、作曲家を俯瞰する重要なジャンルのひとつだ。今回は7曲に加え、ボン時代の終わりに書かれた初期作品なども加えて増強した全3回で構成される充実企画。その2日目のプログラムは、ウィーンに進出したベートーヴェンが「作品番号1」を与えて満を持して出版した3曲のうちの一曲、ピアノ三重奏曲第2番Op.1-2(1793〜95年作曲)。『街の歌』の愛称で呼ばれ、当時のウィーンの流行歌だったコミック・オペラ『船乗りの愛』の旋律を変奏主題にしたピアノ三重奏曲第4番Op.11(1797年作曲)。やはりオペラの旋律を主題にした、『仕立て屋カカドゥ』の主題による変奏曲とロンドOp.121a(推定1803年作曲)。いわゆる「傑作の森」と呼ばれる全盛期に生まれたピアノ三重奏曲第6番Op.70-2(1808年)。
白井圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)の三人による「Trio Accord」は、2003年、当時東京藝術大学在学中の同級生だった彼らによって結成されたアンサンブル。それぞれの活動もあって、一時活動を中断していたが2015年に再開。ソリストとして室内楽奏者として、あるいはオーケストラ・プレーヤーとして、日本の楽界の中心で世代を牽引する名手たちの演奏は注目を集めている。
会場は、日本の洋楽の発展を見つめてきた「生きた歴史」の旧東京音楽学校奏楽堂。日本最古の洋式音楽ホールの由緒ある空間に、ベートーヴェンのトリオが颯爽と響く。
文:宮本 明
【公演情報】
Trio Accord――白井 圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)
ベートーヴェン ピアノ三重奏曲 全曲演奏会 II
2020.3/20(金・祝)18:00 旧東京音楽学校奏楽堂
●出演
トリオ・アコード
ヴァイオリン:白井 圭
チェロ:門脇大樹
ピアノ:津田裕也
●曲目
ベートーヴェン:
ピアノ三重奏曲 第2番 ト長調 op.1-2
ピアノ三重奏曲 第4番 変ロ長調 op.11 《街の歌》
「仕立て屋カカドゥ」の主題による変奏曲とロンド op.121a
ピアノ三重奏曲 第6番 変ホ長調 op.70-2