今年も上野を舞台に多彩な公演がくりひろげられている「東京・春・音楽祭」。音楽祭は4月18日まで続く。これからでも間に合う注目公演をいくつか挙げてみよう。
まずは東京文化会館大ホールで開催される「東京春祭 合唱の芸術シリーズ」vol.7、ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」(4/12)。生誕250年にふさわしい大作がとり上げられる。合唱は東京オペラシンガーズ。名匠マレク・ヤノフスキが東京都交響楽団を指揮する。同音楽祭ではたびたびNHK交響楽団と名演を聴かせてくれたヤノフスキが、今回は都響と共演するのも興味深いところ。イヴォナ・ソボトカ、エリーザベト・クールマン、クリスティアン・エルスナー、アイン・アンガーの独唱陣は強力だ。緊迫感あふれるベートーヴェンになるのではないだろうか。
また、東京文化会館大ホールでは、プッチーニの《三部作》も演奏会形式で上演される(4/18)。一幕ものの《外套》《修道女アンジェリカ》《ジャンニ・スキッキ》を三作まとめて楽しめるチャンス。こちらはイタリアのスペランツァ・スカップッチが読売日本交響楽団を指揮する。もはや女性指揮者は珍しくないが、オペラの分野で実績を積む若手は決して多くない。
同じオペラでも歌劇場ではなく教会用に書かれたのがブリテンの《ノアの洪水》(4/5)。旧約聖書を題材にアマチュアでも演奏可能なように書かれているというが、日本で演奏される機会は稀。今回は東京藝術大学奏楽堂で、シリーズ「ベンジャミン・ブリテンの世界 Ⅳ」として演奏会形式で上演される。企画構成と指揮は加藤昌則。歌唱は英語(字幕付)だがセリフは日本語なので、未知の作品であってもわかりやすいのでは。
「東京春祭 歌曲シリーズ」もこの音楽祭の魅力のひとつ。テノールのクリスティアン・エルスナーによるシューベルト「冬の旅」(4/7)、同じくテノールのアンドレアス・シャーガーによるシューマン「詩人の恋」とベートーヴェン「はるかな恋人に」他(4/9)、メゾソプラノのエリーザベト・クールマンによる「“Tell me…”おとぎ話と物語、バラード」がテーマのリサイタル(4/16)他、世界的名歌手たちが声の芸術を披露する。
室内楽では、郷古廉のヴァイオリン、加藤洋之のピアノ、横坂源のチェロで、「東京春祭〈Geist und Kunst〉室内楽シリーズ 」vol.1が新たにスタートする(4/11)。ヤナーチェク、マルティヌー、エネスクら東欧の作品が並ぶ。また、ヴァイオリンの戸田弥生はチェロのクレメンス・ハーゲン、ピアノのアブデル・ラーマン・エル=バシャと共演して、チャイコフスキーの「偉大な芸術家の思い出に」他を演奏する(4/14)。三者の間の化学反応はいかに。
東京春祭マラソン・コンサート vol.10のテーマは「ベートーヴェンとウィーン」。3月29日、11時開演の第I部から19時開演の第Ⅴ部まで、小宮正安の企画構成によりベートーヴェンとウィーンの関係に多角的に迫る。ベートーヴェン漬けの一日を過ごすことができる。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2020年4月号より)
*新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、公演やイベントの延期・中止が相次いでおります。
掲載している公演の最新情報は、それぞれの主催者のホームページなどでご確認ください。
【information】
東京・春・音楽祭 2020
2020.3/13(金)〜4/18(土) 東京文化会館 他
問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-6743-1398
https://www.tokyo-harusai.com