東博でバッハ vol.49 住谷美帆(サクソフォン)

 上野に集まるいくつもの美術館・博物館でのコンサートも、東京春祭ならではの楽しみだ。世界遺産に登録されたル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館 本館をはじめ、それらの多くは、建物そのものがアート。平成のモダン建築を代表する名作として有名なのが、東京国立博物館の法隆寺宝物館。東大寺の正倉院と並ぶ貴重な古代美術を収める展示館の2代目建築として、1999年に新装オープンした。設計を手がけたのはニューヨーク近代美術館(MoMA)新館などで知られる建築家・谷口吉生(1937〜 )。その開放感あるガラス張りのエントランスホールにサクソフォンのバッハが響く。

 バッハの時代にサクソフォンはまだなかったから、当然、他の楽器のための作品を吹くことになる。若手ながらすでにクラシック界を代表する女性サクソフォン奏者としておなじみの住谷美帆が選んだのは、無伴奏チェロ組曲第1番と無伴奏ヴァイオリンのための〈シャコンヌ〉、そして2曲のフルート・ソナタ。弦楽器のための2曲の無伴奏曲は、重音も用いて多声部を巧みに綾なす作品だから、単旋楽器のサクソフォンではそれをうまく処理して吹く必要がある。音域も広い。ブレスの問題もある。何人ものサクソフォン奏者たちが、それぞれのやり方でチャレンジしてきた命題に、若き俊英がどう挑むか。

住谷美帆(左)、大田智美

 一方、同じ管楽器であるフルートのための作品はずっと相性がよいわけだけれど、その2曲で、チェンバロ(通奏低音)パートをアコーディオンの大田智美が弾くのも興味深い。小型オルガンともいえるアコーディオンが、オルガン奏者だったバッハとなじむのは自明だ。声部の持続やその受け渡しなど、チェンバロよりも有利な点も多いはず。4曲のバッハの真ん中に、伊藤康英の「無伴奏アルトサクソフォーンのためのシャコンヌ」(1980)を置いたのも心憎い構成。
 春の夕暮れ。閉館後の博物館の静寂に包まれて、サクソフォンのバッハの深い息づかいに身を委ねる享楽。
文:宮本 明

*新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴い、本公演は中止となりました。(3/13主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.tokyo-harusai.com/news_jp/20200313/


【公演情報】
ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.49 住谷美帆(サクソフォン)

2020.3/24(火)19:00
東京国立博物館 法隆寺宝物館エントランスホール

●出演
サクソフォン:住谷美帆
アコーディオン:大田智美

●曲目
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007  
      フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ト短調 BWV1030
伊藤康英:無伴奏アルトサクソフォーンのためのシャコンヌ
J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004 よりシャコンヌ  
      フルートと通奏低音のためのソナタ ホ長調 BWV1035

※当初発表の曲目より、一部変更となりました。