楽器そのものがハイセンスな美術・工芸品として重宝されたチェンバロとその仲間だが、15世紀の中頃から18世紀の中頃までは家具調度品のようにコンパクトなヴァージナルと呼ばれる鍵盤楽器が人気を得て、多くの音楽愛好家が気軽に演奏したと伝えられる。特に、イングランドがエリザベス朝と呼ばれる時代を迎えて勢力を拡大した16世紀中盤〜17世紀前半。音楽を愛好する上流階級の人々はこのヴァージナルを愛し、魅惑的な音楽の数々を愛奏した。チェンバロと同じく、楽器のボディ内に張られた弦を爪で弾くことで音を奏でるシステムだが、チェンバロと比較をすると音量も控えめであり、手作り感満載な“愛すべきパートナー”として人気を博したといえるだろう。
ひとつの美術史を巡るような充実したアーカイブを心ゆくまで堪能できる『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』開催を記念し、会場である国立西洋美術館の主任研究員によるトークも交えたミュージアム・コンサート。人気チェンバリストの曽根麻矢子がヴァージナルを演奏し、ウィリアム・バードやジョン・ブルほか、この時代に書かれた魅力的な小品たちを紹介してくれる。秘やかに奏でられるメロディ、品格の高い見事な装飾音、心地よい手作り感覚をおぼえる楽器のサウンド。その時間、会場にいる私たちは無意識の中でタイムトラベルをしているのかもしれない。
文:オヤマダアツシ
*新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴い、本公演は中止となりました。(3/13主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.tokyo-harusai.com/news_jp/20200313/
【公演情報】
ミュージアム・コンサート
「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」記念コンサート vol.1
曽根麻矢子(ヴァージナル)
2020.3/30(月)11:00、14:00 国立西洋美術館 講堂
[各回約60分]
●出演
ヴァージナル:曽根麻矢子
お話:川瀬佑介(国立西洋美術館 主任研究員)
●曲目
バード:
ウィリアムピーター氏のパヴァーヌ
ジョンがキスしに来た
パーソン:落ち葉
ジョンソン:アルマン
リチャードソン:パヴァーヌ
ペアーソン:アルマン
ストロジャー:ファンタジア
ブル:半音階的パヴァーヌとガリアルド