エリーザベト・レオンスカヤ(ピアノ) I モーツァルトと新ウィーン楽派

 エリーザベト・レオンスカヤといえば、2018年東京・春・音楽祭でのシューベルト・チクルスの印象が強烈だ。あの年、レオンスカヤは4月4日から14日までの偶数日に計6回の演奏会に出演して、シューベルトのピアノ・ソナタのうち、未完の3曲を除く18曲、及び「さすらい人幻想曲」の計19曲を弾いた。6回中5回を聴いたが、彫りが深くたくましい、大柄な音楽づくりに圧倒された。彼女の頭の中には曲の見取り図が揺るぎなく構築されていて、それに従って確かな足取りで進むので、大船に乗った気持ちで迷いなくついていくことができたのだ。

 20年は2種のリサイタルが予定されているが、ここで採り上げるのは「モーツァルトと新ウィーン楽派」公演である。モーツァルトの第10番ハ長調 K.330、第8番イ短調 K.310が幕開けに演奏され、シェーンベルク「6つの小さなピアノ曲」がそれに続き、再びモーツァルトのソナタ2曲、ウェーベルン「ピアノのための変奏曲」を挟んで、モーツァルトの第13番変ロ長調 K.333で締める。

 1945年ジョージア生まれの彼女はモスクワ音楽院でロシア・ピアニズムの伝統を受け継いだ。78年のウィーン移住後はここが彼女の第二の故郷となり、同地ゆかりの作曲家たちの作品を積極的にレパートリーとしてきた。そのあらわれの一つが、前述のシューベルト・チクルスだった。今年のこの公演ではシューベルトから時代を両方向に進んで、18世紀のモーツァルトと20世紀の新ウィーン楽派を演奏対象とする。

 モーツァルトは25歳のとき宮仕えを蹴り、ウィーンでフリーランスの音楽家生活を営んだ。そうした彼の主体性は、音楽の新しい方向性を求めて無調や12音技法へと大胆に進んだ新ウィーン楽派の精神に継承されたのではないか。その意味での組み合わせとして聴くと、楽都ウィーンを拠点とした音楽家たちの何らかの共通項が、卓越した構成感を身上とするレオンスカヤの演奏から浮かび上がってきそうだ。
文:萩谷由喜子

*新型コロナウイルス感染症の拡大の影響に伴い、海外からの渡航制限拡大により、予定していた出演者の来日がかなわなくなったため、本公演は中止となりました。(3/18主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.tokyo-harusai.com/news_jp/20200318/


【公演情報】
エリーザベト・レオンスカヤ(ピアノ) I
モーツァルトと新ウィーン楽派

2020.4/4(土)18:00 東京文化会館 小ホール

●出演
ピアノ:エリーザベト・レオンスカヤ

●曲目
モーツァルト:
 ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330
 ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調 K.310
シェーンベルク:6つの小さなピアノ曲 op.19
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332
ウェーベルン:ピアノのための変奏曲 op.27
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第13番 変ロ長調 K.333