また、エリーザベト・クールマンが聴ける。このリサイタルの前に歌うベートーヴェン《ミサ・ソレムニス》(4/12)がすばらしいのはもちろんだが、大ホールをも圧する彼女の歌唱を、小ホールの親密な空間でしみじみと味わえる幸福と言ったらない。
メゾソプラノのクールマンは低声が豊かなのは当然として、ふくよかで暖かい高声まで自然に響く。ピアニッシモも美しい。そして深い奥行きの先に、単なる歌であることを超えて、音楽がゆるぎない存在として浮かび上がる。それは知性と音楽性を併せもつ選ばれた歌手だけがなしうる特権だ。加えて、ドイツ語の美しさ。
最近はオペラの舞台を制限し、活動をほぼリサイタルやコンサートに絞っている彼女。リサイタルではいつも、一連の歌曲の並びにストーリー性を持たせている。ブラームスに始まり、シューベルト、レーガー、ヴォルフ、リスト、レーヴェと並ぶ今回は、なにを訴えるのか。その読み解きの楽しみもある。
40代も後半に差しかかり、1曲ずつ曲の精神を掘り出す冴えは、確実に増している。音楽上のパートナーであるピアノの鬼才、エドゥアルド・クトロヴァッツの少し硬質な音との相性のよさも、いつも通りであろう。
文:香原斗志
*新型コロナウイルス感染症の拡大の影響に伴い、海外からの渡航制限拡大により、予定していた出演者の来日がかなわなくなったため、本公演は中止となりました。(3/18主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.tokyo-harusai.com/news_jp/20200318/
【公演情報】
東京春祭 歌曲シリーズ vol.31
エリーザベト・クールマン(メゾソプラノ) & エドゥアルド・クトロヴァッツ(ピアノ)
2020.4/16(木)19:00 東京文化会館 小ホール
●出演
メゾソプラノ:エリーザベト・クールマン
ピアノ:エドゥアルド・クトロヴァッツ
●曲目
“Tell me…” おとぎ話と物語、バラード
ブラームス:
永遠の愛について op.43-1
サッフォー風頌歌 op.94-4
荒野を越えて op.86-4
テレーゼ op.86-1
五月の夜 op.43-2
克服できぬもの op.72-5
シューベルト:
小人 D771
タルタロスの群れ D583
アトラス D957-8
レーガー:
マリアの子守歌 op.76-52
とてもうれしい op.37-3
よい忠告 op.98-2
ヴォルフ:
恋人がわたしを食事に呼んでくれたの(《イタリア歌曲集》より)
あなたは言うのね、わたしが伯爵夫人じゃないって(《イタリア歌曲集》より)
並々ならぬご身分はよく存じあげていますわ(《イタリア歌曲集》より)
もしもあなたが天国へ昇ったら(《イタリア歌曲集》より)
リスト:
墓とばら S285
真珠 S326
祖先の墓 S281
レーヴェ:
オーロフ氏 op.2-2
時計 op.123-3
詩人トム op.135a
海を行くオーディン op.118
●チケット料金(税込)
S¥7,000 A¥5,500 U-25¥1,500
※U-25チケットは、2020年2月13日(木)12:00発売開始
(公式サイトのみでの取扱い)