ベルリン・フィルの第1ソロ・ヴィオラ奏者による初リサイタル、ピアノ四重奏にも登場!
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で第1ソロ・ヴィオラ奏者を務めるアミハイ・グロスが、「東京・春・音楽祭2019」で2つの公演に出演する。1つは昨年に続いてベルリン・フィルの同僚たちと奏でるピアノ四重奏曲のプログラム(3/27 東京文化会館 小ホール)。もう1つは、初となるリサイタルだ(3/29 同)。来日が近づく中、ベルリンでグロスにその意気込みを聞いた。
「ノア・ベンディックス=バルグリー(第1コンサートマスター)、オラフ・マニンガー(ソロ・チェロ奏者)に、ピアノのオハッド・ベン=アリを加えた4人でお届けします。プログラムはドイツ・ロマン派でまとめました。マーラーの作品は若い頃の習作ですが、とても内省的な美しさに溢れており、シューマンの曲は叙情楽章が絶品。ブラームスの第1番は沸き立つようなフィナーレが有名ですよね。聴衆、われわれ音楽家双方に喜びを与えてくれるプログラムではないかと思います。すでに多くの場で演奏してきたレパートリーですが、このメンバーでこれらの曲を演奏するのは今回が初めて。グループとしてどういう音を見つけられるか、どんな新しいアイディアが浮かぶか、とても楽しみです」
29日のリサイタルでも、シューマンとブラームスの名作が並ぶ。「幻想小曲集」とヴィオラ・ソナタ第1番。どちらも、もともとはクラリネットのために書かれた曲という共通性がある。
「ヴィオラとクラリネットは音のレンジが似ているので、兄弟姉妹のような関係といえるでしょうか。ブラームスの音楽では、交響曲でもそうですが、ヴィオラの響きがとても重要です。柔らかくあたたかみがあり、内にこもった響き。ブラームスの響きをどう作るかということは、自分にとってヴィオラをどう弾くかということに等しいのです。
完全にヴィオラのために書かれたのは、ショスタコーヴィチのソナタ。長大かつ深遠。きっと彼は『これが自分の最後の曲だ』と思って書いたのでしょう。極めてエモーショナルで、舞台では120%の力で没頭しないと弾けません。悲しみの中にも美があり、私の大好きな音楽です」
筆者がグロスの演奏を初めて聴いたのは2009年の冬だった。ベルリン・フィルの当時のコンサートマスター、ガイ・ブラウンシュタインが中心となってメンデルスゾーンの八重奏曲を弾いたのだが、その中にベルリン・フィルのオーディションに合格したばかりの彼がいた。すごい逸材が入ったと思ったものだ。そんな話を本人にしてみると。
「もう10年も経つのですか! まだ昨日のことのようです。それまで私はエルサレム弦楽四重奏団での活動がメインで、オーケストラで弾いたのはベルリン・フィルが初めてでした。あまりにレヴェルが高く、いきなり冷水に飛び込んだようなショックを受けました。最初のシーズンはマーラーの交響曲全曲演奏に取り組んでいたので、毎回必死になって練習しましたね。
いまはベルリン・フィルの一員であることをより楽しんでいます。例えるなら、昔は船に乗っているだけだったのに、今はもっと心を開いて、操縦することもできるようになった感覚があります。サイモン・ラトルからキリル・ペトレンコへ、時代が変わる境目にこのオケのメンバーでいられることは嬉しいです」
イスラエルのエルサレムに、ハンガリーにルーツを持つ父とイスラエル出身の母との間に生まれた。フランクフルトとベルリンで学び、1995年にはエルサレム音楽センターの大学オーケストラの首席奏者とともにエルサレム弦楽四重奏団を創設。2010/11シーズンよりベルリン・フィルの現在のポストに就いた。
「国際的な雰囲気が漂うベルリンはとても住みやすく、文化的にも興味が尽きません。もっとも、小さな子どもが2人いるので、いまはどうしても子育てが優先になりますが」
バスケットボールが好きで、自分でもプレーをするという意外な一面も話してくれた。
グロスが奏でる愛器は、イタリア・ブレシアの弦楽器製作者、ガスパロ・ダ・サロによるもので、作られたのは実に1570年にさかのぼる。
「通常ヴィオラは41〜42センチのサイズですが、この楽器はもともと44センチもありました。そのため、大分昔に標準サイズにカットダウンされています。そうでなければ、バルトークの協奏曲などは弾けませんからね」
ルネサンスの時代に生まれた楽器が、21世紀の春の上野で鳴り響く音楽の不思議さ。それはやはり実演でこそ味わっていただきたいと思う。
取材・文:中村真人
【Profile】
エルサレム生まれ。5歳からヴァイオリンを学び、11 歳でヴィオラに転向。デイヴィッド・チェン、ハイム・タウブ、タベア・ツィンマーマンらに師事。1995年エルサレム音楽センターの大学オーケストラの首席奏者とともにエルサレム弦楽四重奏団を創設。2007年イスラエルのアビブ・コンクールでゴッテスマン賞(ヴィオラ部門)を受賞。10/11年シーズンからベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第1ソロ・ヴィオラ奏者。ソリスト、室内楽奏者としても活躍。ガスパロ・ダ・サロ(1570年製)のヴィオラを個人の所有者より終身貸与されている。
【公演情報】
●ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽
〜ピアノ四重奏の夕べ——マーラー、シューマン、ブラームス
2019.3/27(水)19:00 東京文化会館 小ホール
出演:ノア・ベンディックス=バルグリー(ヴァイオリン)、アミハイ・グロス(ヴィオラ)、
オラフ・マニンガー(チェロ)、オハッド・ベン=アリ(ピアノ)
●アミハイ・グロス(ヴィオラ)
〜シューマン、ブラームス、ショスタコーヴィチ
2019.3/29(金)19:00 東京文化会館 小ホール
出演:アミハイ・グロス(ヴィオラ)、オハッド・ベン=アリ(ピアノ)
問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-6743-1398
http://www.tokyo-harusai.com/