音楽ライター・柴田克彦がおすすめする東京春祭

 WEBぶらあぼANNEX東京・春・音楽祭2019特設サイトでは、クラシック音楽情報誌『ぶらあぼ』の執筆陣に、東京春祭の魅力とおすすめ公演をアンケート。第4弾は、音楽ライター、柴田克彦のおすすめ公演をご紹介する。

文:柴田克彦(音楽ライター)


━━あなたにとっての東京春祭の魅力、楽しみ方は?

 東京春祭の魅力は何と言っても、春の始まりを感じる季節に、心浮き立つ空気感の中で、ハイクオリティのクラシック音楽を連日満喫できること。これは当たり前といえば当たり前だが、かようなチャンスなど東京春祭以外にない。多様なジャンルの公演があるのも大きな魅力。オペラや合唱のシリーズで得られる充実感のみならず、音楽祭にラインナップされることで、普段あまり聴かないジャンルやアーティストに自然と目が向き、新たな楽しみも生まれていく。またコンサートが保守化される中、レアな演目を数多く聴けるのも個人的に重要な要素。加えて美術館や博物館での公演も他にない魅力であり、タイミングが合えば展示を覗くことができるのも嬉しい。

 


━━おすすめ公演3つ。それぞれのお薦めポイントは?

●東京春祭 合唱の芸術シリーズvol.6
シェーンベルク《グレの歌》〜後期ロマン派最後の傑作(4月14日)

 後期ロマン派の最後を飾るこの美しき大作は、著名な楽曲の中では最大と思しき超・超巨大編成のオーケストラと、3組の男声4部合唱、混声8部合唱に、贅沢な使い方がなされる5人の独唱者を要するだけに、特別な機会でないとまず演奏されない。それを、近代の大曲を得意とする大野和士の指揮、立体的サウンドを誇る東京都交響楽団、緻密かつ迫力のある東京オペラシンガーズ、豪華な実力派独唱陣で堪能できるとなれば、足を運ばずにおれるはずがない。しかも3月にカンブルラン指揮の読響定期でも取り上げられるので、続けて聴けば、在京ビッグオーケストラによる
「グレの歌」の比較という、前代未聞の経験もできる。何はともあれこの曲の生演奏は必聴!


●紀尾井ホール室内管弦楽団 with リチャード・エガー
〜ヴィヴァルディ《四季》(3月22日)

 待ち望んでいた公演だ。それは両者による2016年のコンサートが忘れられないから。エンシェント室内管の音楽監督をはじめ新時代の古楽界リーダーとして活躍しながら、ロンドン響やコンセルトヘボウ管等にも客演しているエガーは、音楽と共演者を共に躍動させる稀有の先導者。2016年の公演では、紀尾井シンフォニエッタ(当時)が、喜々として弾んだ音楽を紡ぎ出すことに驚きつつ、愉悦感に満ちたひとときを堪能した。前回はパーセルとヘンデルの作品だったが、今回はコレッリやヘンデルの合奏協奏曲、そしてヴィヴァルディの「四季」(ヴァイオリン・ソロはエンシェント室内管のコンマス)とお馴染みの作品が並んでいるので、期待はなおいっそう膨らむ。


●郷古 廉(ヴァイオリン)& 加藤洋之(ピアノ)
〜ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会 III(4月10日)

 3年に亘るベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会の最後を飾る公演。声高に叫ばずして強靭かつ深い音楽を奏でる郷古廉は、俊才居並ぶ新世代のヴァイオリニストの中でも最高の実力者。彼が加藤洋之と共に行ってきた当シリーズでは、楽曲を正面から見据えた剛毅かつ表情豊かな、ある意味“男らしい”ベートーヴェンを聴くことができる。キュッヒルと共に当ソナタ全曲演奏会をウィーン楽友協会で行った加藤が、これらの楽曲におけるピアノの意味を再認識させてくれるのもお薦めのポイント。昨年は一段進化していたので今回への期待は大きいし、究極のソナタ「クロイツェル」と孤高の逸品第10番が登場するとなれば、前2回を逃した方もぜひ!


【Profile】
柴田克彦(しばた・かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーランスの音楽ライター、評論家、編集者となる。『ぶらあぼ』等の雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、CDブックレットへの寄稿、プログラム等の編集業務、講演や講座など、幅広く活動中。著書に『山本直純と小澤征爾』(朝日新書)。 


【公演情報】
紀尾井ホール室内管弦楽団 with リチャード・エガー
〜ヴィヴァルディ《四季》

2019.3/22(金)19:00 東京文化会館 小ホール

郷古 廉(ヴァイオリン)& 加藤洋之(ピアノ)
〜ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会 III

2019.4/10(水)19:00 東京文化会館 小ホール

東京春祭 合唱の芸術シリーズvol.6
シェーンベルク《グレの歌》〜後期ロマン派最後の傑作

2019.4/14(日)15:00 東京文化会館 大ホール