音楽ライター・高坂はる香がおすすめする東京春祭

 WEBぶらあぼANNEX東京・春・音楽祭2019特設サイトでは、クラシック音楽情報誌『ぶらあぼ』の執筆陣に、東京春祭の魅力とおすすめ公演をアンケート。第2弾は、音楽ライター・編集者、高坂はる香のおすすめ公演をご紹介する。

文:高坂はる香(音楽ライター)


━━あなたにとっての東京春祭の魅力、楽しみ方は?
 東京・春・音楽祭は、発表されたプログラムをじっくり見るのが楽しい。ワーグナーやバッハのように毎年必ず取り上げられる作曲家や、恒例で登場する室内楽のグループがあって、その回ごとに、新しい音楽と発見を届けてくれるからだ。これは、土地に根付いたこのイベントならではの文化をじっくり育んできた、東京春祭ならではのおもしろさだと思う。
 人混みは得意でないから、上野公園の桜は見たいけれどつい足が遠のいてしまうところ、東京春祭があることで、お花見客で賑わう場所に出かけるきっかけにもなっている。結局行ってみると、その賑わいも含めて楽しい。それから近年、御徒町にはインドの宝石商がたくさんいるため、インド料理の名店が増えている。演奏会の合間においしいカレーを味わう楽しみもある。

 


━━おすすめ公演3つ。それぞれのお薦めポイントは?

●コハーン・イシュトヴァーン(クラリネット)と仲間たち
〜金子三勇士(ピアノ)とシャールクジ・バンド from ブダペスト
(日本・ハンガリー国交樹立150周年記念)(3月17日)

 ハンガリー出身のコハーン・イシュトヴァーンと、ハンガリーのジプシー音楽をレパートリーとするシャールクジ・バンド、そして、ハンガリーと日本の血を引くピアニストの金子三勇士による、どっぷりとハンガリーの空気に浸れる公演。ブラームスのクラリネット・ソナタやヴァイオリン・ソナタも楽しみだが、特に期待するのはやはり、ブラームス「ハンガリー舞曲」やバルトーク「ルーマニア民族舞曲」、「チャールダーシュ」や「ツィゴイネルワイゼン」といった舞曲系の作品。ハンガリー土着の音楽のリズム感を体で知るミュージシャンたちが、どんなアンサンブルを聴かせてくれるのか、期待は大きい。


●ミュージアム・コンサート 東博でバッハ vol.42
豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)& 中野振一郎(チェンバロ)
〜ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 全曲演奏会(3月20日)

 夜の美術館や博物館に入ることができるのは、東京春祭ミュージアムコンサートで味わえる非日常の一つ。なかでも「東博でバッハ」シリーズは、毎回良い演奏家がバッハに真正面から向き合うプログラムを披露してくれる、楽しみな企画。
今年の5つの「東博でバッハ」公演の最初を飾るのは、名手、豊嶋泰嗣と、チェンバロ奏者の中野振一郎によるコンビ。中野振一郎の生き生きとしたチェンバロと、豊嶋泰嗣のヴァイオリンがどのように対話し、からみあうのか。バロック時代よりもずっと古い時代の考古遺物が所蔵された建物の中で聴くバッハは、人類の歴史の中ではまだ新しい文化として、新鮮に響くかもしれない。


●リチャード・エガー (チェンバロ)
〜plays BACH(3月23日)

 現代ピアノで弾かれるバッハには、豊かな音量と幅広い音色を持つ楽器で演奏される音楽ならではの魅力があるが、一方、古楽器で名手が演奏するバッハにもまた特別な味わいがあり、聴くと、毎回バッハについての新しい発見がある。今回は、古楽界を牽引し、チェンバロ奏者としてだけでなく指揮者としても活躍するリチャード・エガーによるオール・バッハ・プログラムということで、期待せずにはいられない。東京文化会館小ホールのような、細かい響きをすべて聴き取ることができる会場で、濾過される前の複雑な味が感じられるようなチェンバロの音に耳を傾ける。素敵な時間になりそうだ。


【Profile】
高坂はる香(こうさか・はるか)

ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーで活動。「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の制作に編集長として携わるほか、雑誌やWeb媒体、CDブックレット、コンクール公式サイトの記事を執筆。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/


【公演情報】
コハーン・イシュトヴァーン(クラリネット)と仲間たち
〜金子三勇士(ピアノ)とシャールクジ・バンド from ブダペスト
(日本・ハンガリー国交樹立150周年記念)

2019.3/17(日)15:00 東京文化会館 小ホール

ミュージアム・コンサート東博でバッハ vol.42 
豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)& 中野振一郎(チェンバロ)
〜ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 全曲演奏会

2019.3/20(水) 19:00 東京国立博物館 平成館ラウンジ

リチャード・エガー (チェンバロ)
〜plays BACH

2019.3/23(土)18:00 東京文化会館 小ホール