WEBぶらあぼANNEX東京・春・音楽祭2019特設サイトでは、クラシック音楽情報誌『ぶらあぼ』の執筆陣に、東京春祭の魅力とおすすめ公演をアンケート。第1弾は、音楽ジャーナリスト、飯尾洋一のおすすめ公演をご紹介する。
文:飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)
━━あなたにとっての東京春祭の魅力、楽しみ方は?
「東京・春・音楽祭」の魅力はそのまま上野の街の魅力と重なっている。音楽を聴く喜びを味わいつつ、春の行楽気分も満たし、美術館や博物館で豊かな時間を過ごす。演奏会の前後に時間の余裕を持って出かければ、ぐっと楽しみの幅が広がる。花を見て、絵を見て、美しい音楽を聴く。最高のぜいたくではないだろうか。その気になれば、パンダにだって会える。
この音楽祭ではオペラから室内楽まで大小さまざまな公演が毎日続く。メニューが多彩なので、自分なりのサブテーマを持って公演に臨むのも一手。「今年は未知の作品をたくさん聴こう」とか、「バロック音楽メインで公演を選ぶ」といったように、自分用に音楽祭をカスタマイズするといった考え方も有効だ。
━━おすすめ公演3つ。それぞれのお薦めポイントは?
●ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽
〜ピアノ四重奏の夕べ――マーラー、シューマン、ブラームス(3月27日)
今、世界最高のオーケストラは? と尋ねられれば、ベルリン・フィルと答えるほかない。驚異的なアンサンブル能力と自律的に音楽を作り出す表現力の高さは、オーケストラ芸術の最高峰を究めつつあると言っていいほど。そんなベルリン・フィルの顔ともいえるキープレーヤーたちが、室内楽に取り組む。第1コンサートマスターのベンディックス=バルグリーやソロ・チェロ奏者のマニンガーらによるピアノ四重奏が披露するのは、最小編成のベルリン・フィルなのか、あるいは仲間たちの親密な音の語らいなのか。マーラー、シューマン、ブラームスというロマン派プログラムも魅力的。緻密さと熱さが一体となった名演が誕生する予感。
●東京春祭ワーグナー・シリーズvol.10
《さまよえるオランダ人》(演奏会形式/字幕・映像付)(4月5日、4月7日)
この音楽祭のハイライトは、なんといってもワーグナー・シリーズ。例年トップレベルのキャストが招かれ、「これぞワーグナー」と唸らされる高水準の演奏を聴かせてくれる。第10回となる今回は《さまよえるオランダ人》が演奏会形式で上演される。オランダ人役として久々に来日するブリン・ターフェルを始め、ゼンタ役のリカルダ・メルベートら、今年も充実した歌手陣がそろった。NHK交響楽団を指揮するのは注目株のダーヴィト・アフカム。欧州でめきめきと頭角を現す新鋭である。ベテラン勢とはひと味違ったワーグナーを聴かせてくれるのではないだろうか。合唱が活躍する本作品では、東京オペラシンガーズの歌唱も大きな聴きものとなる。
●東京春祭 合唱の芸術シリーズvol.6
シェーンベルク《グレの歌》〜後期ロマン派最後の傑作(4月14日)
毎年恒例の「合唱の芸術シリーズ」も6回目。今回は最大の話題作が用意される。「後期ロマン派の断末魔」とでも呼びたくなる大作、シェーンベルク「グレの歌」。巨大編成のオーケストラと合唱団、独唱陣が絢爛たるサウンドを響かせる。時とともに肥大化していったロマン主義音楽が、20世紀初頭についに到達したゴールがここに。あまりに大編成であるがゆえに、めったなことでは上演されない作品であるが、どういうわけか2019年は「グレの歌」の当たり年で、今回の大野和士指揮東京都交響楽団をはじめ3つもの在京オーケストラが演奏する。つまり、これは祭りだ。期せずして生まれた「グレ」祭り。もうグレるしかない。
【Profile】
飯尾洋一(いいお・よういち)
音楽ジャーナリスト。著書に『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシック』(廣済堂新書)、『マンガで教養 やさしいクラシック』監修(朝日新聞出版)他。雑誌、ウェブ、コンサート・プログラムへの執筆や、テレビ朝日「題名のない音楽会」音楽アドバイザー、ANA機内放送「旅するクラシック」、FM PORT「クラシックホワイエ」ナビゲーター他、放送でも幅広く活躍。
【公演情報】
●ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽
〜ピアノ四重奏の夕べ――マーラー、シューマン、ブラームス
2019.3/27(水)19:00 東京文化会館 小ホール
●東京春祭ワーグナー・シリーズvol.10
《さまよえるオランダ人》(演奏会形式/字幕・映像付)
2019.4/5(金)19:00、4/7(日)15:00 東京文化会館 大ホール
●東京春祭 合唱の芸術シリーズvol.6
シェーンベルク《グレの歌》〜後期ロマン派最後の傑作
2019.4/14(日)15:00東京文化会館 大ホール