江戸時代以前、海から見るこの地が島のように見えたことに由来すると言われる湯島。湯島天神、湯島聖堂、春日局の墓所といった名所や旧跡も多く、上野の演奏会場までの道のりは、春の散歩にも最適だ。
①旧岩崎邸庭園
東京メトロ湯島駅から徒歩約3分の距離にある「旧岩崎邸庭園」は、1896年に三菱創設者・岩崎家の本邸として建設。イギリス人のジョサイア・コンドルによる設計で、近代日本を代表する西洋木造建築として名高い。現存するのは洋館、撞球室、和館の3棟。館内の随所にはみごとなジャコビアン様式の装飾が施されており、その繊細なデザインは往事のままの雰囲気を漂わせている。別棟にある撞球室(ビリヤード場)は、スイスの山小屋風の木造建築。広間には、橋本雅邦が下絵を描いたと伝えられる日本画も残っている。また、大名庭園を一部踏襲した広大な庭は、芝庭付き近代庭園の初期の形を留めているそうだ。1961年に洋館と撞球室が重要文化財に指定。その後、69年に和館大広間と洋館東脇の袖塀が、99年に煉瓦塀を含めた屋敷全体と実測図が、それぞれ重要文化財に指定されている。
また、同庭園では「午後のミニコンサート」を主催。「東京・春・音楽祭」の開催期間中も、4月3、8、9日の3回に渡って、洋館1F大食堂、客室、婦人客室で公演を行う。明治を代表する洋館に響く美しい調べに酔いしれよう。出演者や開演時間などの詳細は、http://www.tokyo-park.or.jp/announcement/035/detail/19104.html
旧岩崎邸庭園(きゅういわさきていていえん)
台東区池之端1-3-45
TEL 03-3823-8340
開園時間:9:00〜17:00
休園日:年末・年始 (12月29日~1月1日)
http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index035.html
②かりんとう ゆしま花月
「甘味処みつばち」のあんみつをはじめ、散歩の一休みやお土産のお薦めが数多い湯島。中でも筆者一押しなのが、「かりんとう ゆしま花月」だ。昭和20年代の初頭、華やかな花柳界だったこの地の、粋でいなせな風情の中で、先々代の女将が子供相手の小さな駄菓子屋を開いたのが始まり。その後、この店の代名詞であるかりんとうが評判を呼び、現在のような店を構えるようになった。だが、「昔と変わらない場所で、昔と変わらない小さな店で、昔と変わらない味を、昔懐かしい下町の人情味溢れる店として」頑なに守っているという。現在は5種の菓子を販売。名物のかりんとうは、ガラスのように艶やかで、美しい琥珀色の姿形が特長。外はカリッ、中はサクッとした独特の食感は、職人の丁寧な作業の為せる業と言えるだろう。そこで長年培われた職人の粋と技は、他のあられやせんべいにも受け継がれ、こだわりの味を提供し続けている。
かりんとう ゆしま花月(かりんとう ゆしまかげつ)
文京区湯島3-39-6
TEL 03-3831-9762
営業時間
月〜金:9:30〜20:00
土・日・祝日:10:00〜17:00
休業日:無休
http://www.karintou-kagetsu.com/
③有職組紐 道明
湯島は名所や旧跡が多いこともあり、食べ物以外にもお土産の選択肢が豊富。その中で、クラシック音楽ファンには少々変り種かもしれないが、「有職組紐 道明」の門をぜひ一度叩いてみて欲しい。
織物とも編み物とも異なる組紐は、日本で高度に発達した伝統技術。明治時代以降は、和装の帯締にも活用されてきた。この組紐は丸台と呼ばれる道具で作られており、1本を組むのに長い時は1週間前後もかかるという。
1652年創業の道明は、現当主の道明葵一郎さんで10代目。神社仏閣や博物館に遺された歴史的な組紐の復元なども手掛ける由緒ある老舗だ。店頭には常に500種以上の帯締が色鮮やかに並び、店員が季節やシチュエーションに合わせた最高の1本を選んでくれる。
和装を愛する文化人や芸能人も多数愛用するこの帯締。値段も当然立派なので、一般の方が気軽に購入するのは難しいかもしれない。だが、大学で建築を学んだ若き当主は、その技術を駆使し、新しいライフスタイルに合った組紐を提案することにも積極的。「洋装の男性も和装の女性とお揃いで着けられるように」というコンセプトで作られたネクタイや蝶ネクタイは、その好例だ。手作りの一点ものということを考えると、価格も巷の高級ネクタイ並に抑えられているのも嬉しい。近い将来、「東京・春・音楽祭」に集う演奏家や聴き手が、あちこちでこのネクタイを締めている。ふと、そんなお洒落で華やいだ未来を夢想してしまった。
有職組紐 道明(ゆうそくくみひも どうみょう)
文京区湯島3-45- 11(現在、店舗建て替え中のため、年末までこちらの仮店舗)
TEL 03-3831-3773
営業時間
月~土:10:30~18:30
日・祝日:10:30~17:00
休業日:無休
http://www.kdomyo.com/
④上野精養軒 グリルフクシマ
古くから文豪の街だった湯島には、彼らの愛した名店があちこちに暖簾を掲げている。森鴎外の行きつけだった江戸前蕎麦の「蓮玉庵」や、鰻割烹「伊豆栄」は、その代表格だ。上野で演奏を楽しむ前に湯島でランチ。文豪気分で上記のような和食というのも素敵だが、ここは音楽に合わせて西洋料理はいかがだろう。お薦めはやはり、鴎外の「青年」や夏目漱石の「三四郎」といった名作にも登場する絶品フレンチ「上野精養軒」。そのメインダイニング「グリルフクシマ」だ。創業は1876年、上野公園の開設に伴い、不忍池畔の現在の地に支店を開いた。140年近く続く伝統に現代らしさを柔軟に取り入れながら、季節感を大切にしたフランス料理を提供し続けてきた。ぜひ一度は試してもらいたい逸品は、伝統の技が光るドミグラスソースを使った煮込み料理と、何日もかけてブイヨンを2回とることで味に深みを持たせたダブルコンソメスープ。明治の気品にあふれた佇まいと格式高い料理を、一流の人々に愛されてきたサービスで堪能したい。
上野精養軒 グリルフクシマ(うえのせいようけん ぐりるふくしま)
台東区上野公園4-58
TEL 03-3821-2181
営業時間:11:00~21:00(ランチは11:00~16:30)
休業日:無休
http://www.seiyoken.co.jp/restaurant/fukushima.html