リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2

 巨匠リッカルド・ムーティが目下全力で取り組んでいるライフワークが「イタリア・オペラ・アカデミー」。ムーティが先人たちから受け継いできたイタリア・オペラの、とりわけヴェルディの真髄を次世代に継承しようというプロジェクトだ。2015年にムーティの自宅のあるラヴェンナでスタート。東京春祭でも一昨年から「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」としてまずは3年計画で始まった。コロナ禍で昨年は中止。今年も入国規制の影響で開催が不安視されたが、先頃無事開催が発表された。

 今回の演目は《マクベス》。4月9日から13日間にわたるアカデミーは、ムーティが指揮する演奏会形式上演(4/19, 4/21)と、そこに向けてのリハーサルが若い指揮受講生のマスタークラスを兼ねる形で構成される。

 キャストはヨーロッパで躍進中の若手歌手たちと日本勢の混成チーム。アカデミー期間中、彼らもまたマエストロからみっちり鍛えられる。前回の《リゴレット》(参考:2019年「リッカルド・ムーティ「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」vol.1 《リゴレット》 開催レポート」)でも、アカデミー序盤のリハーサルと最終日の本番では、歌唱の成熟度、歌手たちの集中度がまったく違っていた。なにせ、すでにキャリアのあるイタリア人歌手たちがイタリア語の発音で叱られてしまうことも珍しくないのだ。そうやってじっくり練り上げた末の成果だけに、最後の2回の公演はもちろん聴き逃せない。

「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 2019」リハーサルより 
左:リッカルド・ムーティ 右:チヤ・アモス
(C)東京・春・音楽祭実行委員会/青柳 聡

 でもじつはこのアカデミーの醍醐味は、そこに至るリハーサル(マスタークラス)そのものにあるのだ。冒頭に「ヴェルディの真髄の継承」と書いたが、ムーティの教えは、その言葉から連想される、感覚的・形而上的なものではない。すべてがじつに具体的で、小さな実証の積み重ね。言葉と音楽の関係を中心に、ヴェルディがなぜその音を書いたのかを一つひとつ解き明かしてくれる。魂は形あるものに宿るのだし、形そのものがヴェルディの、西洋音楽の魂なのだと言ってもよいのだと思う。

 そんな貴重なマスタークラスが今年は無料でインターネット配信される。本来は会場で、音楽専科の聴講生だけに公開されるチャンスなのだが、今回は感染対策で聴講不可に。その代わりの措置が、一般ファンには思わぬ福音となる。若い指揮者たちへのレッスンから、私たち音楽ファンも多くを学ぶことができるはずだし、なにより、2週間集中して、イタリア・オペラの巨匠とともに《マクベス》という演目に濃厚に向き合うことができるのは得難い体験だ。自分は演奏家ではないから無縁だと思う人も、騙されたと思って、まずは一日だけでもムーティの白熱教室を覗いてほしい。きっと虜になるにちがいない。

 なお今回は、指揮受講生が指揮する公演も用意されており(4/20)、そちらは青山貴(マクベス)、谷原めぐみ(マクベス夫人)ら日本人歌手が出演する。日本声楽界の底力がムーティを少なからず驚かすのではないか。大いに期待したい。

 また、「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」の関連公演として、ムーティのたっての希望で2夜のオーケストラ・コンサート(4/22, 4/23)が実現する。アカデミー期間中の巨匠の手兵となる東京春祭オーケストラは、日本のオーケストラの主要メンバーやソリストからなる腕利き揃い。その実力と熱心な姿勢をムーティは大いに信頼していて、「オペラ以外でも彼らとじっくり向き合いたい」と、急遽オーケストラ・コンサートが提案された。音楽祭全体の日程が決まったあとに追加されたため、ホームグラウンドの上野を飛び出しての公演。はからずも、規模も性格も異なる2つのコンサートホールで聴けるのも興味深い。会場はオケのメンバーがムーティの意気に応えて自分たちで探してきたそうだ。美談。
 曲はムーティの一方の十八番であるモーツァルト。これも必聴だ。
文:宮本 明

「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 2019」リハーサルより 
(C)東京・春・音楽祭実行委員会/青柳 聡


【アカデミー詳細】
《リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2》
開催期間:4/9(金)〜4/21(水)

リッカルド・ムーティによる《マクベス》作品解説
2021.4/9(金)19:00 東京文化会館 大ホール

来場チケット料金(税込):全席指定 ¥3,500 U-25 ¥2,000
ライブ・ストリーミング配信チケット ¥2,000
※同時通訳用のレシーバー使用料を含む。
※本公演のライブ・ストリーミング配信視聴は日本国内に限り可能です。

リハーサル
2021.4/10(土)〜17(土) 東京文化会館 大ホール/東京音楽大学100周年記念ホール(池袋キャンパス)
※4/10(土)〜16(金)のアカデミー講義はインターネットでライブで無料公開いたします(日本国内のみ視聴可)。
《スケジュール》
4/10(土)12:00-18:30
4/11(日)11:00-20:00
4/12(月)11:00-19:00
4/13(火)<休み>
4/14(水)10:30-17:00
4/15(木)10:30-17:00
4/16(金)10:30-17:00

※途中、1時間程度の休憩をはさみます。
指導:リッカルド・ムーティ
指揮受講生:チヤ・アモス、ヨハネス・ルーナ― /他
マクベス(バリトン):青山 貴
マクベス夫人(ソプラノ):谷原めぐみ
バンコ(バス・バリトン):加藤宏隆
マクダフ(テノール):芹澤佳通
マルコム(テノール):城 宏憲
侍女(ソプラノ):北原瑠美
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:イタリア・オペラ・アカデミー合唱団
演目:ヴェルディ《マクベス》

リッカルド・ムーティ introduces 若い音楽家による《マクベス》(抜粋/演奏会形式/字幕付)
2021.4/20(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

出演/指揮受講生:チヤ・アモス、ヨハネス・ルーナー 他
   マクベス(バリトン):青山 貴
   バンコ(バス・バリトン):加藤宏隆
   マクベス夫人(ソプラノ):谷原めぐみ
   マクダフ(テノール):芹澤佳通
   マルコム(テノール):城 宏憲
   侍女(ソプラノ):北原瑠美
   管弦楽:東京春祭オーケストラ
   合唱:イタリア・オペラ・アカデミー合唱団
   合唱指揮:キハラ良尚
来場チケット料金(税込):S¥6,500 A¥4,500 B¥3,500 U-25 ¥1,500
ライブ・ストリーミング配信チケット ¥1,500
※本公演のライブ・ストリーミング配信視聴は日本国内に限り可能です。

リッカルド・ムーティ指揮《マクベス》(演奏会形式/字幕付)
2021.4/19(月)18:30 東京文化会館 大ホール
2021.4/21(水)18:30 東京文化会館 大ホール

出演/指揮:リッカルド・ムーティ
   マクベス(バリトン):ルカ・ミケレッティ
   バンコ(バス):リッカルド・ザネッラート
   マクベス夫人(ソプラノ):アナスタシア・バルトリ
   マクダフ(テノール):芹澤佳通
   マルコム(テノール):城 宏憲 
   侍女(ソプラノ):北原瑠美
   管弦楽:東京春祭オーケストラ
   合唱:イタリア・オペラ・アカデミー合唱団
   合唱指揮:キハラ良尚
来場チケット料金(税込):S¥26,000 A¥21,500 B¥17,500 C¥13,500 D¥9,500 E¥5,500 U-25 ¥2,500 
ライブ・ストリーミング配信チケット ¥2,500
※本公演のライブ・ストリーミング配信視聴は日本国内に限り可能です。
*当初予定しておりました出演者より変更となりました。最終的な出演者は上記をご覧いただきますようお願いいたします。


【関連公演】
●リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ
2021.4/22(木)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
2021.4/23(金)19:00 紀尾井ホール

曲目/モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調 K.385 《ハフナー》
          交響曲第41番 ハ長調 K.551 《ジュピター》
来場チケット料金(税込)
 [4/22(木)公演]S¥16,000 A¥13,000 B¥10,000 C¥8,000 D¥6,000 E ¥5,000 U-25 ¥2,500
 [4/23(金)公演]S¥16,000 A¥13,000 B¥10,000 U-25 ¥2,500
ライブ・ストリーミング配信チケット ¥2,500
※本公演のライブ・ストリーミング配信視聴は日本国内に限り可能です。


【来場チケット販売窓口】

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https://www.tokyo-harusai.com/ticket_general/
※来場チケット発売開始は4/4(日)10:00より
●東京文化会館チケットサービス(電話・窓口)
TEL:03-5685-0650(オペレーター)

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