春の上野に欠かせない風物詩となった「東京・春・音楽祭」。2020年も趣向を凝らしたプログラムが組まれた。200公演以上のなかから、音楽祭のハイライトとなる公演をいくつかご紹介しよう。
まずは前回に続いて開催されるリッカルド・ムーティ「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」。巨匠ムーティが若い音楽家たちにイタリア・オペラの奥義を伝授する。このアカデミーの一環として、ムーティ指揮東京春祭特別オーケストラの演奏により、ヴェルディの《マクベス》全曲が演奏会形式で上演され、音楽祭の開幕を飾る(3/13、3/15)。また、本公演とは別にアカデミーの指揮受講生による特別公演(抜粋)も開催される(3/14)。
音楽祭の目玉公演として人気の高い「東京春祭ワーグナー・シリーズ」では、《トリスタンとイゾルデ》が、マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団により上演される(4/2、4/5)。ヤノフスキといえば、同音楽祭では《ニーベルングの指環》の名演が記憶に新しいところ。アンドレアス・シャーガー、ペトラ・ラングをはじめ、強力な歌手陣がそろう。演奏会形式として体験できる最高水準のワーグナーを期待してもいいのではないだろうか。
また、今回もバイロイト音楽祭との提携公演として、カタリーナ・ワーグナー監修のもと「子どものためのワーグナー《トリスタンとイゾルデ》」が開催される(3/28、3/29、4/1、4/4、4/5)。小学生を対象とした編曲版で、セリフは日本語、歌唱はドイツ語。子ども向けとはとても思えない禁断の愛の物語を、いったいどんな風にアレンジするのか。“小学生ワグネリアン”の誕生を望む。
そして、20年といえば忘れるわけにはいかないのが、ベートーヴェン生誕250年。多数のベートーヴェン企画が用意されるが、大きな注目を集めそうなのがヤノフスキ指揮東京都交響楽団、東京オペラシンガーズらによる「ミサ・ソレムニス」(4/12)。マエストロたっての希望で、この大作が取り上げられることになったとか。ちなみに来年バイロイト音楽祭で「第九」を指揮するのがヤノフスキ。ベートーヴェンのもうひとつの記念碑的名作を東京で指揮してくれるのがうれしい。また、名ピアニスト、エリーザベト・レオンスカヤは後期三大ピアノ・ソナタをとりあげる(4/8)。ベートーヴェンのピアノ音楽の終着点がここに。長く記憶に残る一夜になるのではないか。レオンスカヤはほかに別プログラムのリサイタル(4/4)と室内楽公演(4/6)も開く。さらに恒例のマラソン・コンサート(3/29)では「ベートーヴェンとウィーン」がテーマに掲げられるなど、さまざまな角度からベートーヴェンの魅力に迫ることになる。
新シリーズもスタートする。読売日本交響楽団との「東京春祭プッチーニ・シリーズ」だ(4/18)。初回は《外套》《修道女アンジェリカ》《ジャンニ・スキッキ》の「三部作」。プッチーニのメロディの美しさ、創意に富んだオーケストレーションを演奏会形式で堪能できる。指揮はスペランツァ・スカップッチ。
東京春祭歌曲シリーズにも好企画が並ぶ。マルクス・アイヒェによるブラームス(3/23)、クリスティアン・エルスナーによる「冬の旅」(4/7)、アンドレアス・シャーガーによる「詩人の恋」(4/9)、そして、エリーザベト・クールマンの「おとぎ話と物語、バラード」をテーマとした公演(4/16)で、それぞれの持ち味が発揮される。
2020年、上野はいっそう華やかな春を迎える。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2019年12月号より)
東京・春・音楽祭2020
2020.3/13(金)〜4/18(土)
東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、上野学園 石橋メモリアルホール、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館、東京キネマ倶楽部 他
問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-6743-1398
https://www.tokyo-harusai.com/
※各公演の発売日などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。