「シャンシャン」フィーバーに湧く上野。3月からは、いよいよ国内最大級のクラシック音楽の祭典『東京・春・音楽祭-東京のオペラの森-』もスタート。さらに上野が盛り上がることでしょう。
そんな東京春祭の魅力の一つが、上野の各美術館・博物館で開催されるミュージアム・コンサート。コンサートホールとは、また違った雰囲気での演奏が楽しめる毎年人気のプログラムです。「東博でバッハ」や国立科学博物館での「〈ナイトミュージアム〉コンサート」もオススメですが、特にイチオシしたいのは、『VOCA展2018 現代美術の展望─新しい平面の作家たち』”※)の会期中に合わせて上野の森美術館で開催されるミュージアム・コンサート「木川博史(ホルン)〜現代美術と音楽が出会うとき」です。こちらは、すべてのミュージアム・コンサートの中で唯一、展示室が会場となるコンサート。実際のアート作品に囲まれた状態で演奏を楽しむことができるコンサートです。
(※VOCA展[ヴォーカ展]は、今年で25回目を迎える若手の登竜門的展覧会。全国の美術館学芸員やジャーナリストが推薦した40才以下の若手作家が平面作品[絵画に限らず、写真や映像も可。厚さ20㎝以内であれば、平面作品とみなす]の新作を出品。選考会により、グランプリに相当するVOCA賞を含む各賞が決定する。これまで村上隆さん、奈良美智さん、蜷川実花さんら錚々たる顔ぶれが、出展している)
そんな大注目の「現代美術と音楽が出会うとき」をさらに楽しむべく、見事2018年のVOCA賞に輝いた作家・碓井ゆいさんと、日本センチュリー交響楽団を経てNHK交響楽団で活躍する若きホルニスト・木川博史さんに、その見どころ、聴きどころをダブル・インタビューしてきました!
(取材・文:アートテラー・とに〜 写真:M.Terashi/Tokyo MDE)
━━碓井さん、まずはVOCA賞の受賞おめでとうございます!
碓井「ありがとうございます。」
━━普段は、どんな作品を制作されているのですか?絵画ですか?
碓井「美大の絵画学科を卒業していますが、特に絵画には限らず、手鏡や香水瓶など身近なモノをモチーフにして、『普段見過ごされがちな物事に目が向くような』コンセプトを持った作品を制作しています」
碓井「テーマは『日の丸』です。小学校、中学校までは国旗に疑問を持つことなどなかったのですが、自分の通っていた高校では、卒業式の時に『日の丸』を掲揚しなかったんです。それがきっかけで、以来、『日の丸』について気にするようになりまして。民主党の日の丸切り貼り問題(2009年)のときに、白地に赤い丸というシンプルなデザインながら、国家の象徴でもあることがおもしろいと思いました。そんな抽象的でありながら重要なアイコンでもある『日の丸』のイメージを、不定形の布地をつなぎ合わせるクレイジーキルトの技法で解体、再構成した作品です。」
━━パッと見、ポップでカワイイ作品かと思ったのですが、なかなかエッジの効いた作品だったのですね。確かに、言われてみると、日の丸弁当やらトマトやらに混ざって、戦争や政治的なトピックを連想させるものも縫い付けられていますね。
碓井「カワイイと思って頂いても、批評性を感じて頂いても。そこは鑑賞する皆様の自由です。作品として観た時に、バランスがおもしろくなるように、いろいろと悩みながら配置を考えたので、そんなところも楽しんでもらえたら嬉しいです。」
━━さて、そんな碓井さんの作品の前で、今回は演奏されるということですが。木川さんは、これまではどんなミュージアム・コンサートに参加されましたか?
木川「じつは、今回がミュージアム・コンサートデビューなんです(笑)。演奏家としての一つの目標だったので、楽しみです」
━━それは気合が入りますね!今回はどんなプログラムにしたんですか?
木川「色とりどりの現代美術の作品が展示室に並ぶでしょうから、それらのイメージと響きあうように、ヴィニェリの『ホルン・ソナタ op.7』やピルスの『ソナタの形式による3つの小品』のように色彩豊かな曲を中心に選定しました。日本ではあまり耳にする機会のない曲だとは思いますが。
それと、意外と皆様はホルンだけの演奏って聴いたことがないと思うので、ホルンの音色をちゃんと知ってもらおうと、一曲目はあえてピアノはなしで、ホルンだけで聴かせるマドセンの『サイが見る夢』を選びました。」
━━そういえば、ホルンって、形はパッと頭に浮かびますが、音色は正直なところ浮かばないです。すみません。一曲目、楽しみにしています!ところで、プログラムにある「近江典彦:新作」が、世界初演となっていますが、どういうことなのですか?
木川「友人である作曲家の近江典彦さんに、今回の”VOCA展”をイメージして新曲を作ってもらっているんです。ミュージアム・コンサートでの演奏が、まさに世界初演です。《our crazy red dots》の中に、『君が代』の楽譜があったので、曲のどこかに『君が代』のフレーズが出てくると思います。」
━━今、サラッとスゴいこと発表しましたけど、碓井さん、このこと聞いていました?
碓井「いや、今初めて知りました。まさか自分の作品からイメージして曲を作ってもらえるなんて」
━━碓井さんも、当日コンサートに行くしかないですね。
碓井「はい。行っていいものなのか悩んでいたんですが、絶対にうかがいます」
━━新曲は完成しているんですか?
木川「それが、まだ全然出来ていないみたいで。さすがに、1か月前には仕上げて欲しいのですが・・・(苦笑)」
━━ちなみに、碓井さんは音楽を、木川さんはアートを鑑賞することはあるんですか?
碓井「私は制作の時間ずっと音楽を聴いています。制作中は、基本的にずっと手を動かしているので、音楽がかかってないと、手が止まってしまうかもしれないですね。」
木川「僕は金沢に縁があるので、金沢21世紀美術館で現代アートはよく観ていますよ。あと、演奏の表現の幅を広げるためにも同時代の絵が展示されている展覧会にはなるべく行くようにしています。例えば、印象派の時代の音楽を演奏するのであれば、印象派の絵画を観に行きます。実際に絵を観たほうが、その時代のイメージが掴みやすいんですよね。」
━━最後に、音楽ファン、美術ファンの皆様に一言お願いいたします。
碓井「現代美術はわからない、と仰る方も多いですが、自由に見ていただいて、好きな作品や好きな部分を見つけてもらえたら嬉しいです。」
木川「今回は新作の初演もあったりと、美術と音楽の関係を感じていただく良い機会になるかと思います。ミュージアム・コンサートを通じてホルンという楽器やクラシック音楽を近くに感じていただければ嬉しいです。」
━━今日はありがとうございました。新曲が間に合うのかも含めて、当日のコンサートを楽しみにしています(笑)
■VOCA展2018 現代美術の展望─新しい平面の作家たち
2018.3/15(木)〜3/30(金)
上野の森美術館
休館:会期中無休
開館時間:午前10時〜午後6時(入館は閉館の30分前まで)
入館料:一般600円、大学生500円、高校生以下無料
http://www.ueno-mori.org
【公演情報】
■ミュージアム・コンサート
木川博史(ホルン)
~現代美術と音楽が出会うとき
2018.3/23 (金)19:00 上野の森美術館 展示室
●出演
ホルン:木川博史
ピアノ:松岡美絵
●曲目
マドセン:サイが見る夢
クロル:3つの小品
I. Impromptu
II. Canto mesto
III. Geschwindmarsch
ヴィニェリ:ホルン・ソナタ op.7 
I. Allegro
II. Lento ma non troppo
III. Allegro ben moderato
近江典彦:新作(世界初演)
ピルス:ソナタの形式による3つの小品 
I. Sinfonia
II. Intermezzo
III. Rondo alla caccia
【Profile】
碓井 ゆい(うすい ゆい)
1980年 東京都に生まれる
2004年 多摩美術大学美術学部絵画学科卒業
2006年 京都市立芸術大学大学院美術研究科修了
<主な個展>
2013年 「Speculum」Studio J(大阪) 、「Shadow work」小山市立車屋美術館(栃木) 、「Sugar」XYZ collective(東京)
2017年 横浜市民ギャラリーあざみ野エントランスロビー(神奈川) ギャルリー志門(東京)
<主なグループ展>
2012年 「うつせみ」常懐荘(愛知)
2014年 「XYZ collective At Brennan & Griffin – Man & Play」Brennan & Griffin(ニューヨーク)
2015年 「Japanese Nightingale Doesn’t Sing At Night Curated by American Boy friend」、XYZ collective(東京)、 「O」Shanaynay(パリ)
2016年 「アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016」旧・名古屋税関港寮(愛知)
木川博史(ホルン)
2003年第20回日本管打楽器コンクール ホルン部門1位及び大賞受賞。04年第39回マルクノイキルヒェン国際コンクールにおいてディプロマを受賞。これまでに、サイトウ・キネン・フェスティバル、小澤征爾音楽塾、PMF等に参加。13年大阪市より「咲くやこの花賞」を受賞。日本センチュリー交響楽団を経て、15年9月よりNHK交響楽団団員。
アートテラー・とに〜
日本でただ一人しかいない、アートテラー。「敷居が高い…」「難しい…」といった“美術”の負のイメージを払拭すべく、その魅力をわかりやすく、かつ面白くトークで伝える。よしもと芸人時代につちかったしゃべりの技術と、笑いのセンスで独自のトークガイドを展開。これまでに横浜美術館や森美術館など、数々の美術館で公式トークガイドを担当、最近では、雑誌、ラジオやテレビをはじめ、さまざまなメディアにも進出している。
アートテラー・とに〜の【ここにしかない美術室】 http://ameblo.jp/artony/
著書『ようこそ! 西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』