中嶋彰子が語る、Cabaretを巡る物語

ヒトラー率いるナチスが政権につき狂気の時代へ突入する直前の享楽と退廃の都ベルリン・パリで人々は、政治、芸術、性の表現自由を求め華やかなキャバレーショーに熱狂していた・・・
この独特な芸術文化が花開いた黄金の時代と呼ばれる20世紀初頭の世界を、歌唱力・演技力ともに定評のある中嶋彰子が、ジャンルを超えた音楽仲間たちと再現、東京春祭NIGHTとして魅惑の一夜を贈る。

ヴァイルの三文オペラからピアフの歌ったシャンソンまでCabaretの世界を披露する第1部終了後は、スペシャルな第2部が朝まで繰り広げられる。内容は当日のお楽しみだ。

ーー今年の東京春祭での《Cabaretを巡る物語》についてうかがいます。これは中嶋さんプロデュースの注目企画ですが、どんなものが用意されているのですか?
 ウィーンに長く住んでいるうちに、音楽だけでなく、文学や美術などいろいろなジャンルの芸術が混じり合って魅力ある文化が生まれた1920年代に強く心惹かれるようになりました。15年くらい前に初めてシェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』を朗唱したことで、語りと演劇性重視のキャバレー的な歌の面白さを味わったのが出発点だったと思います。『月に憑かれたピエロ』は2年前に東京春祭でも歌わせていただいて、今度はさらにジャンルや国や時代の枠をひろげてやってみようということになりました。


ーーそれで、「1920年代の華やかなりし上海からパリ、ベルリン、そして上野へ」というわけですね。

 ええ、戦前のベルリンで成功した夭折の作曲家・天才ヴァイオリニストの貴志康一らしき旅人や、ベルリンのダーリンと言われたキャバレースター、クレール・ヴァルドフなどが世界の都市を巡り歩くという枠組みで、「蘇州夜曲」からアメリカのミュージカル・ナンバー、クルト・ヴァイルのブレヒト・ソング、パリのシャンソン、日本の古い流行歌・・・といったプログラムになります。ミュージカル『キャバレー』からの曲も入っています。あれは1930年頃のベルリンのキャバレーの雰囲気をよく伝えていますからね。


ーーヴァイルがとりわけ楽しみですが、ヴァイルの歌はお好きですか?

 ええ、宮崎国際音楽祭でバレエ・オペラ『七つの大罪』をデュトワ指揮のもと、男声カルテットのハドソン・シャドとの共演で歌ったこともあります。演劇性の強い辛口のヴァイルの歌は、20世紀初頭以降のドイツ・キャバレー文化の粋といってもいいですよね。

右)榎本晋輔


ーーキャバレーというと、日本では男性客が遊ぶ歓楽の場という印象が強いですが、20世紀のヨーロッパでは、多彩な顔ぶれの芸術家たちが集まって実験的だったり挑発的だったり風刺的だったりする、おもしろパフォーマンスをくり広げる、非常に刺激的な芸術空間だったわけですよね。

 そうです。演じる側も客の側もいっしょになってクロスオーバーな芸術をリラックスして楽しんだんですね。そういうキャバレーの楽しさを、ぜひ再現したいと思います。今年はまずキャバレー音楽入門という感じで、各国のキャバレーを巡りますが、できれば東京春祭でこれからも続けて、次はベルリンだけで、その次はパリだけで、というようにプログラムを作っていきたいと思います。


ーーいいですね。今回は中嶋さんの本拠地ウィーンが入っていませんが、是非いずれ、うんとディープにやってください。今回、協演されるのはどんな方々ですか?

 パリのシャンソンを歌う聖児セミョーノフさんは、ユダヤ系ロシアのルーツを持ち、国内外で活躍するジャンルを超えたすばらしい歌い手です。ピアノは、ウィーンを中心に幅広い演奏活動をしている斉藤雅昭さんで、私との息はピッタリです。そのほか腕利きぞろいの人たちがバンドを組みます。


ーーキャバレーにはMC(司会役)が欠かせませんよね。

 もちろんです。新宿でこれぞ東京のキャバレーという感じの素敵なバーを経営していらっしゃる榎本晋輔さんにお願いしました。期待してください。そう、会場も面白いんですよ。上野の山を鶯谷駅に向かって下ったところにある《東京キネマ倶楽部》です。レトロな雰囲気がすごくいいんです。キャバレーということでドリンク付です。第1部のプログラムは決まっていますが、それが終了した23時以降は、朝までくり広げられる第2部の「東京春祭Late Night Show」です。「スペシャルな内容は当日のお楽しみ」ということになっています。なにが飛び出すか私にもわかりません。

聞き手・文:田辺秀樹 写真:M.Terashi/TokyoMDE


【公演情報】
東京春祭NIGHT
Cabaret(キャバレー)を巡る物語
〜1920年代の華やかなりし上海から、パリ、ベルリン、そして上野へ

2018.4/6(金)21:30 東京キネマ倶楽部

●コンセプト/脚本/演出:中嶋彰子
●出演
ソプラノ:中嶋彰子
シャンソニエ:聖児セミョーノフ
ガールズ:純名里沙, 辰巳真理恵, 増井めぐみ

ピアノ:斉藤雅昭
サクソフォン:丹沢誠二
ベース:山本裕之
トランペット:村山貴幸
ドラム:大場 俊

振付:NaHeek
ダンス:菊池明香, 濱中彩恵, 平野智子, 三田村真帆, KANAI, KENJI
Barのマスター:榎本晋輔(ピアノ)

●曲目
【上海 Shanghai】
蘇州夜曲
You Could Drive a Person Crazy (ミュージカル 《カンパニー》 より)
Diamonds Are a Girl’s Best Friend (ミュージカル映画 《紳士は金髪がお好き》 より)

【ベルリン Berlin】
ナナの唄 (クルト・ヴァイル)
《三文オペラ》 より (クルト・ヴァイル)
Mein Herr (ミュージカル《キャバレー》より)

【パリ Paris】
ラストダンスは私に
ラ・ジャヴァネーズ
愛の讃歌
ばら色の人生
フレンチカンカン

【上野 Ueno】
恋人よお寝みなさい(高木東六・作曲)

■チケット料金(税込)
2Fソファ席(4名1組)[自由席]: ¥41,200
1Fテーブル席[自由席]: ¥6,700
1F後方席[自由席]: ¥4,500