街歩き2016●コース4 根津〜上野

根津から東京文化会館の方面へ行くもう一つのルートをご紹介する。根津駅の1番出口を出て正面の信号を渡ると、その先に伸びているのは根津銀座通り。季節の銘菓の並んだ和菓子屋、街の花屋やパン屋、お茶屋など、地域の人々に親しまれる個人商店が軒を連ねる。せんべい屋では、週末にせんべいを手焼きする様子を見られることもある。

①釜竹

根津銀座通りを右に曲がって進んだところに、笹の植え込みに囲まれた蔵が見えてくる。釜揚げうどんの名店「釜竹」である。明治時代に建てられた石蔵のお座敷席と、日本庭園を見渡せる大テーブル席とに分かれている。設計は、サントリー美術館やエクサンプロヴァンス音楽院も手掛けた、あの隈研吾だ。
昆布の香る黒々としただしに、ねぎ、揚げ玉、七味、生姜と少しずつ薬味を足して変化する味を楽しみながら、腰の強いあつあつのうどん(850円~)をすする。厳選された日本酒も、おつまみなどの一品も、迷ってしまうほど豊富に取り揃えられている。
お昼どき、とりわけ週末には行列が絶えないので、時間に余裕を持って訪れたい。平日夜は予約も可能。


写真提供:釜竹

釜竹(かまちく)
〒113-0031 文京区根津2-14-18
TEL 03-5815-4675
営業時間
火〜土:11:30〜14:00、17:30〜21:00(20:30LO)
日:11:30~14:00
祝:11:30~14:00、17:30~20:00LO
定休日:日(夜)、月
席数:34席
HP http://kamachiku.com/

 

②細い道、三段坂

谷中や根津のあたりは空襲の被害を受けなかったため、古い建物はもちろんのこと、古く細い道もあちこちに張り巡らされている。谷中の猫になった気分で、そうした細い道を探検してみるのも楽しい。1枚目の写真のような井戸が今でも使われているのを見つけたり、2枚目の写真のような胸突き坂があったり、新しい発見が必ずある。
川の流れていた根津から上野の山へ行くのだから、上り坂が多くなるのも当然だ。それにしても坂の名前には、粋なものが多い。池之端の三段坂は、3枚目の写真からは分かりづらいが、その名の通り、なだらなか坂が三段階になって連なっている。どうしてこんな地形ができたのか、不思議だ。


 

③清水坂茶房 さえら

三段坂を上がりきって右手に進み、道なりにさらに右に曲がって行き、上野高等学校の敷地に沿って歩くと、急な下り坂になっていく。この坂の名を冠した喫茶店が、今春で創業30年を迎える「清水坂茶房 さえら」。半地下の店内にあるテーブルや椅子、そして「家にいるような気分で過ごしてもらえるように」と置かれた食器棚はすべて松本民芸家具で揃えられ、桜の木肌が陽の光をあたたかく反射する。

30年前に最初の来客が注文したという手作りのプリンセット(950円)をはじめ、メニューは当時からほとんど変わらない。飾られたカップの中から好きなものを選んで淹れてもらえるホットコーヒー(550円)も、一杯ずつドリップし氷で冷して提供されるアイスコーヒー(600円)も、どれもたっぷりと注いでもらえるのが嬉しい。


清水坂茶房 さえら
〒110-0008 台東区池之端4-16-31 清水坂レジデンスBF
TEL 03-5824-5080
営業時間:水~日11:00~18:00
定休日:月、火(祝日は営業・翌日休業)
席数:18席

 

④カフェ&ギャラリー モアノ

清水坂の辺りは古く趣のある建物が多い。築50年以上になる古民家をリノヴェーションした「カフェ&ギャラリー モアノ」には、東京にいることを忘れてしまうほど静かで穏やかな時間が流れる。薄水色のドアを開けて中に入ると、木漏れ日の差す中庭で、ゴールデン・レトリバーの店主イルちゃんがご機嫌で迎えてくれる。
中庭に臨むカフェスペースではオペラが流れ、その隣と地下にあるギャラリースペースは若いアーティストたちのために開放されている。音楽とアートの身近さと、店のコンセプトでもある「フランスのおばあちゃんの家」の居心地の良さとを、ぎゅっと凝縮した空間だ。
マチネの前にお茶をするなら、小麦粉の甘いクレープ(600円~)、ランチや、ソワレの前の軽食には、契約農家から取り寄せたそば粉を使ったガレット(1,000円~)を。じゅーっと天板に生地が流し込まれる音も、中庭に遊びに来るモアノ(すずめ)の声も、すべてが心をほぐしていく。
4月までは店主催でアンティーク雑貨を展示販売しているとのこと。ギャラリーをのぞいてみるだけでも、ぜひ訪れてほしい。


カフェ&ギャラリー モアノ
〒110-0008 台東区池之端4-16-31
TEL 03-5834-7903
営業時間:水~日 11:00~19:00(18:00LO)
定休日:月、火(祝日以外)
席数:10席+4席(テラス席)
HP http://www.moineau.jp
 

 

⑤東照宮の鳥居と階段

清水坂の「さえら」や「モアノ」の向かい側は、上野動物園の敷地になっている。坂を下りきって左に進んでずっと行けば、頭の上を動物園のモノレールが通ったかと思うと、右手にはフェンス越しに馬や羊が見える。ここは、上野動物園の東園と西園の間を通る道なのだ。
そのすぐ先の左手に、石造りの鳥居と階段が姿を現す。上野の東照宮へ通じる鳥居である。この階段を登って行けば、東照宮の前を通って、いつもと違う場所から上野公園へ入って行ける。階段はかなり古いらしく、石はところどころ崩れたり傾いていたりして、手すりはあるものの登るのには一苦労。ここでも、高低差の多い上野の地形を実感する。