INTERVIEW 伊藤亮太郎(ヴァイオリン)

弦の仲間とともに生み出す極上のソノリティ

(C)M.Sato

 NHK交響楽団のコンサートマスター伊藤亮太郎が信頼を寄せる仲間たちと贈るヤマハホールでの室内楽。2018年から1年ずつ好評を重ねている。伊藤と横溝耕一(ヴァイオリン)、柳瀬省太、大島亮(以上ヴィオラ)、横坂源、辻本玲(以上チェロ)。初回から変わらない顔ぶれの名手たちが聴かせる室内楽の醍醐味だ。

 「今回はシェーンベルクの六重奏曲『浄められた夜』をメインにプログラムを組み立てました。ロマンティックな名作が揃ったと思います」

 19世紀末から20世紀にかけての作品が並ぶプログラムは、軽妙で洒脱なフランセの三重奏曲(伊藤、柳瀬、横坂)で幕を開け、ロシアの香りが漂うグラズノフの弦楽五重奏曲(伊藤、横溝、柳瀬、辻本、横坂)、骨太なマルティヌーの弦楽六重奏曲が「浄められた夜」へつながる。通好みの室内楽のジャンルの中でも、けっしてありきたりではない選曲。これらを全部聴いたことがあるという人はかなりディープな室内楽ファンではないだろうか。かといって、マニア受けだけではない、ぐいぐい引き込まれる魅力的な構成だ。

 「フランセはフランス音楽のエスプリ。オープニングにふさわしい曲ですね。前からやってみたいと思っていた曲で、僕は今回初めて弾きます。グラズノフも今回出会ったのですが、名作だと思います。ヴァイオリン協奏曲などもそうなのですけれども、ロシアらしい、響きのきれいな作品ですね。ここまではすぐに決まったのですが、五重奏をもう一曲入れようかと悩んだ末に、マルティヌーの弦楽六重奏曲に行き着きました。マルティヌーの出世作ということですが、テンションが高くて、これで世に認められたというだけの価値のある、内容の充実した、密度が高い作品です。グラズノフとマルティヌーは、とくに聴きどころだと思いますよ」

 そしてシェーンベルクの代表作のひとつ「浄められた夜」をオリジナルの弦楽六重奏版で。メンバーは伊藤はじめオーケストラでも活躍する奏者たちがほとんどなので、この室内楽版、弦楽合奏版ともによく知っているはず。
「僕自身はオーケストラでやったことの方が多くて、六重奏版は第2ヴァイオリンで一度弾いたことがあるだけです。もちろん音の厚みが違いますが、室内楽の方がより緊密なアンサンブルを作りやすいと思います。一方で、内部のエネルギーをうまく表現してあげないと形になりにくいかもしれません」

 同じメンバーで回を重ね、そのアンサンブルの緊密度はいっそう増しているはず。
 「最初、僕がストリング・クヮルテットARCOで一緒にやっている省ちゃん(柳瀬)を応援に呼んで、あとは若い人とやりたいなと考えて彼らに声をかけました。これだけのメンバーと室内楽をやる機会はなかなかありません。すごいクオリティなので負けちゃいけない。毎回刺激だらけです」

 ヤマハホールの響きに合った、弦楽器のよい響きを作りたいと抱負を語る。新しい年の始まりの午後、その響きに身を委ねて過ごしたい。
取材・文:宮本明
(ぶらあぼ2021年12月号より)

珠玉のリサイタル&室内楽 伊藤亮太郎と名手たちによる弦楽アンサンブル【配信あり】
2022.1/9(日)14:00 ヤマハホール
問:ヤマハ銀座ビル インフォメーション03-3572-3171 
https://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/hall/