福田進一が語る、ピアソラの名作「タンゴの歴史」

 アストル・ピアソラの名作「タンゴの歴史」は、そのタンゴの発展の有様を20世紀初頭から表現した名曲です。

 この「タンゴの歴史」は、1982年にベルギーのリエージュ国際ギターフェスティバルの委嘱で作曲、初演されたものです。日本では2年後の1984年に東京/音楽之友社ホールで工藤重典さんのフルートで私が初演しました。

 多くの日本人がピアソラの存在を知らない時代に、会場におられた武満徹さんから暖かい声援を頂いたのを今でもはっきり覚えています。その後30年、世界中で最も多く演奏されるフルートとギターの定番曲になったのは本当に嬉しいことです。

 話は1900年、ブエノスアイレスの場末から始まります。
 第1楽章の「Bordel(ボルデル)1900」
 これは酒場にてと訳されることも多いのですが、実際は売春宿、いかがわしい場所のことです。世界中の駅や港町には必ずそういう場所が存在しますが、ブエノスアイレスもその例外ではありません。

 世界各地から集まる多種多様なお客たちは、好みのお姐さんを待つ間、ちょっとした気晴らしの音楽を求めました。それが初期のタンゴの在り方です。大抵はフルートまたはクラリネットがメロディーを担当しギターが伴奏。ここで奏でられたのは、ひたすら明るい楽しい、陽気なお囃子風の音楽でした。

 30年後、タンゴはカフェに進出していました。
 第2楽章「カフェ1930」
 一転して甘くメランコリックな旋律。世界は大きな戦争の流れの中、退廃的な空気に満ちていました。束の間の出逢い、別れを惜しむ恋人たち、その横で奏でられるヴァイオリンの感傷的なメロディー。この曲はまさにその時代のセピア色の景色を見事に表しています。

 続く、
 第3楽章「ナイトクラブ1960」
 ここでピアソラというタンゴの革命児が登場します。アニバル・トロイロの率いる伝統的な楽団を離れ、それまでのキャリアを捨てて作曲家としてデビューしたピアソラはそれまでにあった既製のタンゴを破壊し始めたのです。2拍子系のリズムに3拍子を持ち込み、組み合わせて5拍子や7拍子のタンゴを生み出しました。保守的なタンゴファンの抵抗は相当なものだったようです。この楽章はその新しいタンゴの萌芽を聴くことが出来ます。

 そして、
 第4楽章「現代のコンサート」
 タンゴはストラヴィンスキーやバルトークをはじめとするクラシックの作曲家にも影響を与え、また多くの演奏家〜タンゴ弾き以外のあらゆるジャンルの演奏家に受け入れられ演奏される音楽となりました。ここでの激しいリズムの躍動は、もはや旋律線を感じさせない新たな時代の音楽となっています。

文:福田進一(ギター)
※一部せんくら2012のブログより転載




■ヤマハホール・コンサート・シリーズ
珠玉のリサイタル&室内楽 
工藤重典&福田進一 デュオ・コンサート

2017年1月20日(金)19:00
ヤマハホール

●曲目:
W.A.モーツァルト(渡辺力也 編)/2つのオペラ・メロディー
   Ⅰ. “なんと美しい絵姿”〜歌劇「魔笛」より〜
   Ⅱ. “妹よ、ごらんなさい”〜歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」より〜
S.メルカダンテ/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」のアリアによる変奏曲(工藤Solo)
F.ソル/モーツァルトの「魔笛」の主題による変奏曲 Op.9(福田Solo)
M.ジュリアーニ/協奏的大二重奏曲 イ短調 Op.85
A.ピアソラ(S.アサド 編)/ブエノスアイレスの冬(福田Solo)
A.ピアソラ/タンゴ・エチュード(工藤Solo)
A.ピアソラ/タンゴの歴史 
R.シャンカル/魅惑の夜明け(ラーガ「トディ」に基づく)

●出演:
工藤重典(フルート)
福田進一(ギター)

●指定:5,000円

●チケット申込み:チケットぴあ
・TEL 0570-02-9999※座席選択不可 
・Pコード:303-373