☆2016年4月30日をもって閉店いたしました。
日常とは異なる空間で心を和ませたり、昂ぶらせたりするという意味で、バーとコンサートホールはよく似ている。その2つを上手にはしごできた時、感じる幸せは何倍にも増幅することだろう。日本有数のバーが所狭しとひしめく銀座には、音楽を愛し、店内のBGMやオーディオにこだわるバーテンダーが多い。そうした中でひときわ強い個性と魅力を放つのが、「BAR TALISKER」のオーナー・内田行洋さんだ。
「銀座はどうしてもステイタスが高く、背伸びをしたり、緊張したりすることが多い。でも僕は、お客様に心地よくゆったりとお酒を楽しんでもらいたくて。バーは日常の疲れや悩みや喜びを打ち明けられる場所だと思うんです」
バックバーやカウンターのあちこちに、彼の愛してやまない『ルパン三世』やスティーブ・マックイーンのグッズが置かれ、「癒し」をユーモラスな笑みで演出するタリスカー。店内のBGMはクラシックやジャズのアナログ・レコードが中心で、柔らかく自然な音色がカウンターに染み込むように響いてくる。ヴォーカルと弦楽はイタリア製のソナス・ファベール、他はアメリカ製のJBLといった具合に、音楽によってスピーカーを使いわけている。
「銀座は音楽関係のお客様が多く、アーティストやオーディオのことを色々学ぶ機会に恵まれました。クラシックではグレン・グールドやフリードリヒ・グルダの鮮烈なピアノに惹かれますね。ゴールデンウィークに有楽町で行われている『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン』にも何度か伺ったことがあって、ピアニストのアンヌ・ケフェレックのCDを購入してサイン会に並んだこともあるんですよ」
店名は、スコットランドのスカイ島にあるシングルモルト・ウイスキー蒸留所の名前からとったもの。この由来にも内田さんらしいバランス感覚とユーモアが滲んでいる。
「シングルモルトの中でタリスカーが一番好きという訳ではないんです(笑)。でも、スモーキーな甘みとほのかな海の塩の香りを特徴とするこのお酒は、ストレートだけでなく、ロック、水割り、ソーダ割りといった様々な楽しみ方がある。自分もバーテンダーとしてかくありたいなと」
日本有数のウイスキー・バーとして知られる一方で、カクテルにも大きなこだわりを持つタリスカー。2003年に共著で『マイ・スタンダード・カクテル―ベースの酒の生かし方』というカクテルブックも執筆している内田さんが、お薦めにと作ってくれたのが、「モスコミュール」と、「ダークラムのダイキリ」だ。
よく冷やした銅製のマグカップにウォッカとライム果汁を注ぎ、ジンジャーエールを加えて作ることが多い「モスコミュール」だが、彼は本来のレシピに記されているジンジャービア(ショウガと糖を発酵させたジンジャーエールのルーツ)を使い、果汁もライムにレモンを混ぜる。さらに生のショウガをすりおろしたり、コショウを使ったりと、常時3種類のレシピを用意しているというから凄い。
そして、濃厚なダークラムとライムとグレナデン(ザクロ果汁と砂糖のシロップ)を加えてシェイクする「ダイキリ」。その赤みがかった色彩とまろやかな味わいは、これからの秋冬、銀座のネオンや音楽シーンにもよく映えることだろう。
取材・文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人
BAR TALISKER(バー・タリスカー)
東京都中央区銀座7丁目5−12 藤平ビル B1F
03-3571-1753
営業時間:月〜金 18:00〜26:00 土 18:00〜23:30
チャージ:¥1000 (21:00までに入店:¥500)