篠﨑和子が奏でるハープは、流麗・優美なだけではない。粒立ちのよい音に生気がこめられ、聴く者に意志を持った“音楽”が届けられる。それゆえソロ演奏に接した際の充足度はきわめて高い。そんな彼女の演奏を、アーティスティックな美術館で味わうという滅多にない体験ができるのが本公演。しかも日本の現代美術に囲まれて、日本の現代音楽を中心としたプログラムを堪能できるとなれば、興味はさらにアップする。
篠﨑は、8歳より母・篠﨑史子の手ほどきでハープを始め、桐朋学園大学、およびニース音楽院を審査員満場一致の金メダルを得て卒業。幼少よりその豊かな才能を開花させ、国内外のコンクールで多くの入賞歴を誇る。国内主要オーケストラとの共演をはじめ、各地でのリサイタル、室内楽の演奏会に出演し、複数のCDをリリース。また、小澤征爾音楽塾、サイトウ・キネン・フェスティバル松本や東京・春・音楽祭などにもたびたび参加している。
今回の会場は、上野の森美術館の展示室。そこでは全国の若手精鋭作家の作品を集めた『VOCA展』が開催されている。篠﨑が弾くのもすべて20世紀以降の音楽。カプレやトゥルニエによる定番ハープ作品もあるが、黛俊郎、野平一郎、細川俊夫、権代敦彦といった日本を代表する作曲家の作品が中心をなす。これらをまとめて聴けること自体がまず貴重だし、現代美術の意欲作に触発された篠崎和子の、この日この場でしかない閃きと煌きに、何より期待が集まる。
文:柴田克彦
【公演情報】
ミュージアム・コンサート
篠﨑和子(ハープ)〜現代美術と音楽が出会うとき
2020.3/18(水)19:00 上野の森美術館 展示室
●出演
ハープ:篠﨑和子
●曲目
A.カプレ:2つの嬉遊曲
Ⅰ. フランス風
Ⅱ. スペイン風
黛 敏郎:ROKUDAN ハープのための
野平一郎:時の螺旋
M.トゥルニエ:ソナチネ op.30
細川俊夫:2つの日本民謡
I.さくら、散る
II.五木の子守歌
権代敦彦:ハープのための 《夕やけ》 op.158