フランツ・シューベルトの歌曲と、19世紀の始めに大衆的な楽器としてウィーンの街でも人気を博していたギターとの親和性は高い。今日ではピアノ伴奏による芸術歌曲として聴かれることの多いシューベルトの「歌」は、ギターをパートナーに迎えると新しい顔を見せるようになり、秘やかな音量とより繊細な表情を追求しながら「言葉と旋律の妙」を極めていく。それは都会の中で生活をする聴き手の耳と感覚を試し、隠れている能力を引き出すことになるのかもしれない。
クラシック・ギタリストという立ち位置を軸にしながらも多種多様な音楽ジャンルや共演者をカバーし、確かな個性を確立してきた鈴木大介が、今回はシューベルトの世界へと挑む。春をテーマにした歌曲が並び(鎌倉在住の英国人歌手、A.シェルトン=スミスとの共演)、豊嶋泰嗣とのデュオによる「ソナチネ」、上村昇とのデュオによる「アルペジオーネ・ソナタ」という室内楽の名品も。19世紀中盤にウィーンで活躍したギタリストのメルツによる、ギター・ソロ版のシューベルト歌曲集、さらには「フルート+ヴィオラ+チェロ+ギター」という珍しい編成の四重奏曲(ボヘミアの作曲家であるマティーカ作曲の三重奏曲にチェロのパートを加筆したもの)まで、ギターをテーマにしたシューベルトのフルコースが味わえるのだ。このワンダーランド、なかなか味わえない世界である。
文:オヤマダアツシ
【公演情報】
シューベルトの室内楽 I ~鈴木大介(ギター)と仲間たち
2020.3/21(土)18:00 東京文化会館 小ホール
●出演
ヴァイオリン/ヴィオラ:豊嶋泰嗣
チェロ:上村 昇
フルート:梶川真歩
ギター:鈴木大介
バリトン:アリスター・シェルトン=スミス
●曲目
第Ⅰ部
シューベルト(鈴木大介編):
ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ ニ長調 D384
シューベルト:
春に D882
緑野の歌 D917
春の小川 D361
ガニュメート D544
僕のものだ! D795-11
メルツ:《ギター独奏のための6つのシューベルト歌曲》
涙の賛美、愛の便り、わが宿、セレナーデ、郵便馬車、漁師の娘
第Ⅱ部
シューベルト(鈴木大介編):アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D821
第Ⅲ部
シューベルト:
春に寄せて D587
春の夢 D911-11
5月の夜 D194
春のおもい D686
春のあこがれ D957−3
ギター四重奏曲 D96
※当初発表の曲目より、一部変更となりました。