音楽評論家・山田治生がおすすめする東京春祭2020

 「WEBぶらあぼ ANNEX 東京・春・音楽祭2020」の特設サイトでは、クラシック音楽情報誌『ぶらあぼ』の執筆陣に、東京春祭の魅力とおすすめ公演をアンケート。第1弾は、音楽評論家・山田治生のおすすめ公演をご紹介する。

文:山田治生(音楽評論家)


━━あなたにとっての東京春祭の魅力、楽しみ方は?

 新学期、新年度がスタートする春。フリーランスで活動している身には年度の感覚はほとんどないのだが、「東京・春・音楽祭」が始めると、東京の新たな音楽シーズンが開幕したことが実感される。器楽・室内楽からオペラまで、新人からベテラン、巨匠まで、これだけ幅の広い音楽祭は日本では極めて珍しい。

 東京春祭の魅力は一発の打ち上げ花火に終わらない継続性にあると思う。恒例の「東京春祭ワーグナー・シリーズ」は今度で11回目となる。ムーティによる「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」は昨年に引き続き2回目である。インターナショナルなアーティストを招聘しながら、日本のオーケストラや音楽家も大切にしている。もともとオペラに力を入れている音楽祭であったが、2020年はいくつものシリーズが積み重なり、《トリスタンとイゾルデ》、《マクベス》、プッチーニ《三部作》、《ノアの洪水》、そして、こどものための《トリスタンとイゾルデ》の5本(!)が上演されることになる。私にとって今年の東京春祭はとりわけオペラが楽しみだ。

左より:リッカルド・ムーティ、ルカ・ミケレッティ(上段左)、アナスタシア・バルトリ(上段右)、リッカルド・ザネッラート(下段左)、フランチェスコ・メーリ(下段右) 右:河村尚子とクレメンス・ハーゲン


━━おすすめ公演3つ。それぞれのお薦めポイントは?

●イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2
リッカルド・ムーティ指揮《マクベス》(演奏会形式/字幕付)(3/13、3/15)

 リッカルド・ムーティが3年にわたり、若い音楽家たちにイタリア・オペラを教え、ともに作り上げていく「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」の2回目は、ヴェルディの《マクベス》。ムーティは、イタリアの若手実力派歌手(ルカ・ミケレッティ、リッカルド・ザネッラート、アナスタシア・バルトリ、フランチェスコ・メーリ)、特別編成のオーケストラ、合唱団を相手に、演奏会形式で《マクベス》全曲を指揮する。巨匠がヴェルディの真髄を示してくれるに違いない。

 また、ムーティによる《マクベス》作品解説(3/6)もすごく楽しみ。昨年も同様の企画が催されたが、ムーティは、レクチャーをするだけでなく、若手歌手を相手に自らピアノ伴奏もするなど、見どころ満載だった。今年も期待しないではいられない。


●東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.11
《トリスタンとイゾルデ》(演奏会形式/字幕・映像付)(4/2、4/5)

 ワーグナー・シリーズの第11弾、待望の《トリスタンとイゾルデ》が東京春祭で初めて演奏される。一番の注目は、トリスタンを歌うアンドレアス・シャーガー。2016年の《ジークフリート》での表題役はまさに衝撃的だった。翌年に東京春祭に再登場し、オペレッタなどを披露してくれた。オーストリアなどの地方の歌劇場で活躍した後、この数年でブレーク。トリスタンは、13年のチョン・ミョンフン&東京フィルでも歌っていたが、進境著しい彼が今回どんなトリスタンを歌ってくれるのか楽しみだ。

 東京春祭だけでなくバイロイト音楽祭の「リング」も担うなど、今やドイツ音楽界の重鎮というべき、マレク・ヤノフスキが指揮するNHK交響楽団の演奏も聴きもの。N響にとって《トリスタンとイゾルデ》の全曲演奏は、1967年の伝説的なブーレーズ指揮の大阪国際フィスティバルでの公演以来ではないだろうか?


●クレメンス・ハーゲン(チェロ)& 河村尚子(ピアノ)
ベートーヴェン チェロとピアノのための作品 全曲演奏会 I・II(4/9、4/10)

 ベートーヴェン生誕250年を記念して、東京春祭では、ヤノフスキ&東京都交響楽団と東京オペラシンガーズによる《ミサ・ソレムニス》、ステファン・ウィンターの「The Ninth Wave – Ode to Nature」Trio Accord(白井圭、門脇大樹、津田裕也)によるピアノ三重奏曲全曲演奏会、N響メンバーによる室内楽マラソン・コンサート「ベートーヴェンとウィーン」などが催されるが、特に楽しみなのは、クレメンス・ハーゲン&河村尚子による「チェロとピアノのための作品 全曲演奏会」である。

 ハーゲン弦楽四重奏団のチェロを担いソリストとしても著名なクレメンスと河村は、2017年にも日本ツアーを行うなど、デュオとして何度も共演を重ねている。もちろん、名手ハーゲンのチェロが聴きものだが、ベートーヴェン作品ではピアノが重要な役割を担うだけに、河村のピアノにも注目!


【Profile】
山田治生(やまだ・はるお)

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。雑誌や演奏会のプログラム冊子などに寄稿。著書に、『トスカニーニ』、小澤征爾の評伝である『音楽の旅人』、『いまどきのクラシックの愉しみ方』(以上、アルファベータ)、編著書に『オペラガイド』(成美堂出版)、共著書に、『日本のオペラ』、『戦後のオペラ』、『バロック・オペラ』(以上、新国立劇場情報センター)、訳書に『レナード・バーンスタインザ・ラスト・ロング・インタビュー』(アルファベータ)などがある。


【公演情報】
イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2
リッカルド・ムーティ指揮《マクベス》(演奏会形式/字幕付)

2020.3/13(金)18:30、3/15(日)15:00 東京文化会館 大ホール

東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.11
《トリスタンとイゾルデ》(演奏会形式/字幕・映像付)

2020.4/2(木)15:00、4/5(日)15:00 東京文化会館 大ホール

クレメンス・ハーゲン(チェロ)&河村尚子(ピアノ)
ベートーヴェン チェロとピアノのための作品 全曲演奏会 I・II

2020.4/9(木)19:00、4/10(金)19:00 東京文化会館 小ホール