蔵(KURA)シック2016●(1)「根津 日本酒 多田」


 東京・春・音楽祭でクラシック音楽を存分に聴いたら、酒処で美味しいつまみと音楽談義を肴に日本酒を嗜む。
また、少し日本酒をひっかけたあとで、美しい音楽を鑑賞する・・・

 上野&湯島&根津エリアには、こだわりの地酒を揃える居酒屋の名店があちこちにあります。このコーナーでは、個性豊かな3店をご紹介し、日本酒とクラシック音楽のステキな関係に皆さんを誘います。

取材・文:山内聖子(SSI認定利き酒師・呑みますライター)
コンサートのセレクト&文&写真:編集部

 扉を開けて店内に入るとまず目に飛び込んでくるのが、日本酒がずらりと並んだ冷蔵庫。愛好家ならば、眺めているだけで喉が鳴ってしまいそうだ。
「どんな人でも楽しめるように、香り系から食中酒まで色んなタイプの酒質を揃えていますが、僕と同世代の蔵元の酒もけっこうあるんですよ」と酒を愛おしそうに見つめながら話す店主の多田修平さんは、まだ31歳と若い。
 もともとはホテルでフレンチを学んだこともあってワインが好きだったというが、とある居酒屋で同い年の蔵元の酒「天明」と出会って衝撃を受け、日本酒一辺倒になったのだという。その後、日本酒専門店で修業を重ね、昨年の10月に満を持して店をオープンした。
 日本酒は約40種類を扱うが、店主いわく「切磋琢磨していきたい関係」と話す、同世代の蔵元が作る「天明」や「廣戸川」、「弥右衛門」、「山の井」などの銘柄が中心柱。それだけではなく、多田さんが惚れ込んだ「三千櫻」や「不老泉」など親交が深い造り手の銘柄も数多く揃えている。蔵元の背景にあるストーリーを聞きながら飲むことができるのも、この店の魅力である。
 料理は出汁を利かせたシンプルな和食だけではなく、香り高いスパイスや「長崎穴子のフリット新ごぼうのクーリ」のようなフレンチの要素をちょっぴり加えた遊び心のある肴も豊富。酒との組み合せの幅がぐーんと広がって、あれこれ銘柄を吟味しながら試したくなってしまうはず。
 日本酒は楽しい。そう、ワクワクした気持ちで酒を味わえる1軒である。

<日本酒>
天明 純米中取り生酒 500円

苺のような甘酸っぱい香りとフレッシュ感が初々しい印象。米の甘みを持たせつつドライなタッチで、スーッとなくなる後口がきれい。軽快な味わいで飲んでいてウキウキする。
<おすすめ公演>
国立科学博物館×東京・春・音楽祭
〈ナイトミュージアム〉コンサート
〜展示空間で楽しむ多彩な音楽とトーク
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3304.html

このお酒には、夜の博物館で、それも展示室で音楽が楽しめる『〈ナイトミュージアム〉 コンサート』がおすすめ。そんな素敵なシチュエーションだけでも、「ウキウキ」しませんか?
 

 

 

 

 

 

 

<日本酒>
三千櫻 純米五百万石 500円

草木のような青々とした香りと、まったりした口当たり。お燗にするとさらに米の旨味が増し、豊満でボリューム感のある味わいに。おひたしや煮物など家庭料理と合わせて気負わずゆるゆる飲みたくなる。
<おすすめ公演>
安田謙一郎 ベートーヴェンを弾く
〜チェロ・ソナタ全曲演奏会 I & Ⅱ
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3122.html
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3126.html

「豊満」や「ボリューム」があるこのお酒には、チェロ音楽の傑作、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲がおすすめです。芳醇なチェロの響き、そして演奏会が2回にわたることもあり、この楽聖のチェロ作品をとことん味わうことができます。
 

 

 

 

 

 

 

<日本酒>
不老泉 亀の尾 山廃純米吟醸 無濾過生原酒 500円

セメダインやハーブのような香りが特徴。若干、バターのようなオイリーな印象も残る。口当たりはスムーズで滑らかだが、ガッシリした酸味が米の旨味を下支えしていて、重厚な印象を残す。だが、味幅はコンパクトなので、肉やチーズなどしっかりした料理には合わせやすく、食中酒としても◎。

<おすすめ公演>
リッカルド・ムーティ指揮
日伊国交樹立150周年記念オーケストラ
〜東京春祭特別オーケストラ&ルイージ・ケルビーニ・ジョヴァニーレ管弦楽団
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3012.html

「ガッシリ」した「重厚」なこのお酒にぴったりの公演は、音楽祭のオープニング、ムーティ指揮の日伊国交樹立150周年記念オーケストラでしょう。日本とイタリアの若い演奏家による大編成のオーケストラが奏でる重厚な響きは「旨味」=「うたごころ」がたっぷりつまっているはずです。
 

 

 

 

<料理>
1)日替りの刺身盛(2人前)1480円は、こしょう鯛、クエ、石垣鯛、真鯖、モンゴウイカなど
2)ソースとともにいただきたい長崎穴子のフリット新ごぼうのクーリ1080円
3)練り込んだ猪ヒレ肉の食感が楽しい、猪つくねとセリの煮物1480円(肉は季節によって変更あり)

左より)日替りの刺身盛、長崎穴子のフリット新ごぼうのクーリ、猪つくねとセリの煮物

左より)日替りの刺身盛、長崎穴子のフリット新ごぼうのクーリ、猪つくねとセリの煮物

<店舗データ>
根津 日本酒 多田

東京都文京区根津2-15-12木村ビル1F
03-5809-0134
17時半〜23時半、土日は15時半〜22時 月休

 

 

 

 

 

【プロフィール】
山内聖子(SSI認定利き酒師・呑みますライター)

1980年生まれ、岩手県盛岡市出身。“夜ごはんは米の酒”がモットーで、日本酒とは10年以上の付き合い。全国の酒蔵を巡りながら、dancyu、散歩の達人、Discover Japanなどの他、数々の週刊誌や書籍で日本酒について独自の切り口で執筆。他にも焼酎、ビール、あらゆる酒場、料理についても多数寄稿している。連載に「酒とツマミ究極の出会いを探して」(週刊大衆ヴィーナス)、「NEO・日本酒論〜飲み方の新提案から妄想までいいたい放題〜」(散歩の達人)、著書に『蔵を継ぐ』(双葉社)がある。