アントネッロ・濱田芳通が語る、カラヴァッジョ展

ミュージアム・コンサート〜「カラヴァッジョ展」記念コンサートvol.2に出演のアントネッロ(古楽アンサンブル)の濱田芳通さんが、カラヴァッジョ展を見学。作品、そして、コンサートへの想いを語ります。
(文:濱田芳通/アントネッロ)

 国立西洋美術館で開催されている『カラヴァッジョ展』の内覧会に訪れた。帰り際には少し陽も陰っており、正面玄関にある大きなバッカスのパネルには、両脇にあるスポットライトから明かりが差していた。

「あれ、この感じってさっきまで度々目にしたものでは…。」もちろん美術館の中で見た絵にあたっていた光は部屋の照明ではない、画家の手により絵にもともと書き込まれた光なのだ。

 バロック絵画の大きな特徴である「明暗」、この明暗の対比から得られる劇的な効果を音楽ではどのように表現したらよいのだろう。これはバロック音楽の演奏に携わる誰しもが抱える課題である。

「風俗」「五感」「光」「斬首」などのテーマごとに構成された展示作品のうち「光」に カテゴライズされた《エマオの晩餐》。カラヴァッジョの晩年様式の端緒を飾る作品。深い闇に人物たちが沈んでいくかのような、静謐で内省的な光の表現は、これ以降のカラヴァッジョの作品に特徴的なもの。 カラヴァッジョ 《エマオの晩餐》 1606 年、油彩/カンヴァス、141×175 cm、ミラノ、ブレラ絵画館 Photo courtesy of Pinacoteca di Brera, Milan

「風俗」「五感」「光」「斬首」などのテーマごとに構成された展示作品のうち「光」に
カテゴライズされた《エマオの晩餐》。カラヴァッジョの晩年様式の端緒を飾る作品。深い闇に人物たちが沈んでいくかのような、静謐で内省的な光の表現は、これ以降のカラヴァッジョの作品に特徴的なもの。
カラヴァッジョ 《エマオの晩餐》 1606 年、油彩/カンヴァス、141×175 cm、ミラノ、ブレラ絵画館 Photo courtesy of Pinacoteca di
Brera, Milan

 ところで、音楽は美術より時代区分としての呼称に遅れが生じる傾向がある。カラヴァッジョに代表されるバロック美術の全盛期は音楽ではバッハ、ヘンデルなどの活躍したバロック時代ではない。それより前の「初期バロック」と呼ばれる時代にあたる。初期バロックの音楽はルネサンスの香りを残しながらも、モンテヴェルディ等をはじめとする偉大な才能たちによって、数々の奇想天外な革新が成し遂げられた。オペラもこの時代に発祥している。そういった意味では、ギャップとしての明暗は作品に確かに存在するし、サウンドとしても作りやすいのかも知れない。コンサートではそんな点も掘り下げて、アパッショネートな音楽をお届けしたい。

 さて、展示されていた絵の中には、楽器を描いた、まるで当時の音が聴こえてきそうな絵がいくつもあった。私にとっては全て日頃からよく用いる親しみのある楽器なので、音色もイメージしながら見ることができた。

 その中で、少々オタクっぽい疑問を一つ。今回の展示で、オラツィオ・ジャンティレスキの描いた『スピネットを弾く聖カエキリア』という絵を見たが、私にはこの音楽の守護聖人が弾いている楽器が、一見してスピネットではなくレガール・オルガンに見えるのだが如何なものだろうか?したがって、私に聴こえてくる音は「ビャ〜!」というけたたましい音である。

カラヴァッジョの画法を模倣し継承した同時代及び次世代の画家たち、カラヴァジェスキ。オラツィオ・ジェンティレスキも、カラヴァッジオから大きな影響を受けた画家のひとりとみなされている。 オラツィオ・ジェンティレスキ 《スピネットを弾く聖カエキリア》 1618-21 年、油彩/カンヴァス、93×106cm、ペルージャ、ウンブリア国立 美術館 Per gentile concessione della Galleria Nazionale dell'Umbria

カラヴァッジョの画法を模倣し継承した同時代及び次世代の画家たち、カラヴァジェスキ。オラツィオ・ジェンティレスキも、カラヴァッジオから大きな影響を受けた画家のひとりとみなされている。
オラツィオ・ジェンティレスキ 《スピネットを弾く聖カエキリア》 1618-21 年、油彩/カンヴァス、93×106cm、ペルージャ、ウンブリア国立
美術館 Per gentile concessione della Galleria Nazionale dell’Umbria

◆ミュージアム・コンサート
「カラヴァッジョ展」記念コンサート vol.1 坂本龍右(リュート)
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3171.html
2016.3.28 [月] 11:00/14:00[各回約60分]国立西洋美術館 講堂

■出演
リュート:坂本龍右
お話:川瀬佑介(国立西洋美術館 研究員)

■曲目
ジョヴァンニ・アントニオ・テルツィ: トッカータ、パドアーナ
ジャック・アルカデルト:
マドリガーレ「あなたは知っている、私が確かにあなたを愛していることを」
ラウレンチーニ・ダ・ロマーノ:パッサメッツォ
ジュリオ・セヴェリーノ:「スザンナはある日」に基づくファンタジア
ルカ・マレンツィオ:もしあなたの目の輝きが
ジョヴァンニ・マリア・ナニーノ:悔い改める者にとって希望となられるイエス
ジョヴァンニ・ジローラモ・カプスベルガー:トッカータ、コッレンテ

◆ミュージアム・コンサート
「カラヴァッジョ展」記念コンサート vol.2 アントネッロ(古楽アンサンブル)
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3172.html
2016.3.29 [火] 11:00/14:00[各回約60分] 国立西洋美術館 講堂

■出演
古楽アンサンブル:アントネッロ
 コルネット、リコーダー:濱田芳通
 ヴィオラ・ダ・ガンバ:石川かおり
 ヒストリカル・ハープ:西山まりえ
お話:川瀬佑介(国立西洋美術館 研究員)

■曲目
アントニオ・ヴァレンテ:パッサメッツォ
ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ
(フランチェスコ・ロニョーニ編):マドリガーレ《草原と丘》
ジョヴァンニ・マリア・トラバーチ:第8旋法によるトッカータ第2番
カルロ・ジェズアルド:ガリアルダ
チプリアーノ・デ・ローレ(リッカルド・ロニョーニ編):
マドリガーレ《別れの時》
タルクィーニオ・メールラ:カンツォーネ《ラ・カラヴァッジャ》
アントニオ・ヴァレンテ:ゼフィーロ
イタリア古謡:タランテッラ・ナポレターナ

◆日伊国交樹立150周年記念
カラヴァッジョ展
http://caravaggio.jp
2016年3月1日[火]〜6月12日[日]
国立西洋美術館[東京・上野公園]
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
http://www.nmwa.go.jp
開館時間
午前9時30分〜午後5時30分
毎週金曜日:午前9時30分〜午後8時
※入館は閉館の30分前まで
休館日
月曜日(ただし、3月21日[月]、3月28日[月]、5月2日[月]は開館)、3月22日[火]
お問合せ
TEL.03-5777-8600(ハローダイヤル)