東京・春・音楽祭 —東京のオペラの森2012—


 かすかに寒さが残る冬の終わりから、桜が満開となる季節へ。3月から4月にかけて東京の上野を中心に開催される「東京・春・音楽祭」は、今や音楽ファンヘ春の訪れを教えてくれる恒例のイヴェントとなった。アートと連携した多彩な企画によるコンサート、東京文化会館をはじめとして上野にある美術館や博物館を利用してのコンサート、さらには周辺の街(カフェなど)におけるミニ・ライヴまで、まさに春の上野周辺を楽しみ尽くす音楽祭として多くの人を集めているのだ。コンサートの数は、ホールや各施設だけでも約35公演、無料イベントなどを含めると全体ではおよそ80公演にもなる予定。その時期だけ上野に泊まり込みたいと思えるほど、毎日さまざまな演奏家たちが登場する。
 中でも音楽ファンが注目するのは、壮大なワーグナーの作品を東京文化会館で上演するシリーズだろう。今回は、愛と信仰、そして人間の欲望をえぐり出す《タンホイザー》。バイロイトやザルツブルク音楽祭等で存在感のある歌を聴かせるステファン・グールドを迎え、圧倒的なステージを実現してくれるはずだ。グールドはジークフリートやトリスタンなども歌い、まさに21世紀のヒーロー像を担っているだけに、ワーグナー・ファンであれば見逃すことはできない。エリーザベトを歌うペトラ=マリア・シュニッツァーも、やはりバイロイト音楽祭等でワーグナーを歌うソプラノ。さらにバイロイトヘの登場はもちろん、ウィーンやブダペストなど各地の歌劇場で活躍し、日本ではハイドンの名指揮者としても知られているアダム・フィッシャーが登場するのも注目されていい。NHK交響楽団と東京オペラシンガーズががっしりと音楽を固めるのは、この音楽祭を知る方ならご承知だろう。演奏会形式ではあるが、映像によって聴衆のイメージを広げる演出が予定されているため、初めて全曲を体験する方でも楽しめるはずだ。
 東京文化会館でのコンサートには他にも、漆原啓子&練木繁夫デュオによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏シリーズや(1日で全10曲を聴けるという、音楽的な充実感たっぷりのコンサート)、原田禎夫がメンバーであるアミーチ弦楽四重奏団および自身のチェロ・リサイタル、錚々たる弦楽器奏者たちが集まった「東京春祭チェンバー・オーケストラ」、白井光子やミヒャエラ・ゼリンガーによる歌曲シリーズ(後者のピアノ演奏は小菅優)、生誕150年を迎えるドビュッシーの作品を中心に1日で全5回が行われるマラソン・コンサートなど、その内容があまりにも多彩すぎて圧倒されてしまう。
 加えて、会場の雰囲気も一緒に楽しめる美術館や博物館でのコンサートも多数。東京国立博物館では5人の音楽家たちによるシリーズ企画「東博でバッハ」が。リニューアル・オープンする予定の東京都美術館では、やはり5人の音楽家が入れ替わり登場し「美術と音楽」というシリーズで演奏を聴かせてくれる。ほかにも国立科学博物館や国立西洋美術館、上野の森美術館、旧東京音楽学校奏楽堂、上野学園の石橋メモリアルホールがコンサート会場に。まさに、多くの施設が集まって一大文化エリアを作り上げている上野だからこそ実現できる音楽祭であり、気軽に散歩をしたりアート鑑賞をしながら、本格派の音楽も楽しめるだろう。
 2011年は大震災等の影響によって、多くのコンサートが中止となった。それだけに今回への期待は計り知れない。
文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ2011年12月号から)

★2012年3月16日(金)〜4月8日(日)
会場:東京文化会館、上野学園石橋メモリアルホール、旧東京音楽学校奏楽堂、
国立科学博物館、東京国立博物館、国立西洋美術館、上野の森美術館 他
問:東京・春・音楽祭実行委員会03-3296-0600
http://www.tokyo-harusai.com