東京・春・音楽祭 —東京のオペラの森2015—《24の前奏曲》シリーズ

 春の訪れとともに上野は音楽祭の街になる。「東京・春・音楽祭」では今年も興味深い公演が目白押しとなっているが、なかでも目を引くのが《24の前奏曲》シリーズだ。全4公演にわたって、ショスタコーヴィチ、ドビュッシー、ショパン、そして没後100年を迎えるスクリャービンの曲集が演奏される。
 「24の前奏曲」といわれて、まっさきに思い出されるのはショパンの曲集だろう。ショパンは、24のすべての調に「前奏曲とフーガ」をそろえたバッハの「平均律クラヴィーア曲集」に触発されて、この曲集を作曲した。ピアニストの聖典ともいうべきバッハの曲集に続いて、ショパンが大傑作「24の前奏曲」を書いたことから、このスタイルが続く作曲家たちによって踏襲されている。
 ショパンに影響を受けたスクリャービンは、16歳から24歳にかけて書いた前奏曲をひとまとめにして「24の前奏曲」に仕立てた。作風は多彩で、ショパンゆずりの甘美なメロディにあふれる一方、スクリャービンならではの恍惚感や独創性にも不足しない。
 ドビュッシーは前奏曲集第1巻および第2巻で、合わせて24の前奏曲を書いた。曲集中には「亜麻色の髪の乙女」や「沈める寺」など広く知られる作品も含まれる。この曲集ではもはや24種類の調というコンセプトは失われているものの、20世紀を代表する名作として、このシリーズには欠かせない。
 ショスタコーヴィチは「24の前奏曲」を作曲したうえで、さらに後年に「24の前奏曲とフーガ」も作曲している。前者はショパンの前奏曲集、後者はバッハの「平均律クラヴィーア曲集」の系譜に連なる作品ということになるだろうか。今回演奏されるのは「24の前奏曲とフーガ」のほうである。
 全4公演のシリーズ中、ショスタコーヴィチ、ドビュッシー、ショパンの3公演をアレクサンドル・メルニコフが、スクリャービンを野平一郎が演奏する。メルニコフにとって、ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」は名刺代わりともいうべき得意のレパートリー。オリジナル楽器にも積極的に取り組むメルニコフは、ドビュッシーでは1910年製のプレイエルを使用する。ショパンではこの名曲に新たな光を当ててくれることを期待したい。またスクリャービンでは、野平一郎の作曲家としての目が、作品の真価を明らかにしてくれることだろう。
 「24の前奏曲」でたどるピアノ音楽史の旅。驚きと発見が待っている。
取材・文:飯尾洋一
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年2月号から)

《24の前奏曲》シリーズ 
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)
Vol.1 ショスタコーヴィチ 3/29(日)15:00 東京文化会館(小)
Vol.2 ドビュッシー 3/31(火)19:00 上野学園 石橋メモリアルホール
Vol.3 ショパン 4/1(水)19:00 東京文化会館(小)
野平一郎(ピアノ)
Vol.4 スクリャービン 4/9(木)19:00 東京文化会館(小)
問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-3322-9966 
http://www.tokyo-harusai.com