きびきびと忙しく立ち振る舞う、店主の青木栄一さんの働く姿が清々しい。しかし、慌ただしいとかピリピリした空気はなく、はじめて訪れてもリラックスできるようなあたたかい雰囲気がこの店にはある。適度なゆるさがあって、つい長居したくなる空間がとても心地いい。
ほかに居酒屋やイタリアンなどでも働いた経験がある店主が、「お客さんの反応が目の前でダイレクトに見えるのが楽しい」と、さまざまある業態のなかから焼鳥屋に決めて開店したのが9年前のこと。
紀州の備長炭でしっかり焼き上げるやわらかくて旨味がある“桜どり”の焼鳥をはじめ肉豆腐、シャモロックの鶏の刺身など鶏料理だけではなく、「自家製ラムレーズンバター」や「オイルサーディンのマヨネーズ焼き」「莫久来(ほやとこのわたの塩辛)」など、多彩なつまみが豊富なのが魅力だ。
日本酒は20種類ほど。生酒が中心なのは、店主の好みによるものだ。
「実は…僕はそんなに飲めないので、ひと口目からおいしくて少量で満足する酒が好きなんです。フレッシュで甘みがある日本酒をおすすめしたくなります」
とはいえ、どのお客さんにも楽しんでほしいと、落ちついた味わいの日本酒や燗向きの酒、熟成酒などラインナップは幅広い。
〆には「親子丼」や「こだわりの卵かけご飯」をいただきたいが、最後にはパティシエであり奥様の真澄さんが作った、甘味をぜひ味わってほしい。熟成古酒と合わせれば、幸せな余韻に浸れるはず。
取材・文:山内聖子(利き酒師・呑みますライター) Photo:M.Otsuka/Tokyo MDE
【日本酒】
白瀑 純米 ど辛 400円
銘柄の通り、非常にドライなタッチで堅さがある。最初から最後までたんたんとした旨味が喉を通り、フィニッシュも軽やか。一杯目に最適。
風の森 純米大吟醸 しぼり華 500円
みずみずしいハーブのような香りがする。口開けはガス感が残っているほど、ピチピチしたフレッシュ感が特徴。キラキラした透明感がある余韻も美しい。野菜から焼鳥まで比較的、料理を選ばない。
田村 生酉元純米 400円
無農薬で育てた自社米と清冽な天然水で醸した酒。上品できれいな米の旨味と、ミルキーな乳酸の風味がする。燗酒にすれば、旨味がじわじわとふくらみ、飲めばしみじみした気持ちになる。
龍勢 長期熟成辛口古酒1999 500円
冷蔵庫で3年間熟成させた後に、常温で寝かせた。ほのかに黒蜜のような甘い香りが立ち上る。ナッツのような香ばしさがあり、深みがあるが余韻は短めでキレ味がよい。チーズ系の料理のほか、クレームブリュレのようなデザートとも合わせたくなる。
【料理】
●とりわさ 700円
さくら鶏にさっと火を入れて、すりたての本わさびと醤油でシンプルに味つけした。ふっくらした食感がおいしい。
●焼鳥6本コース(サラダ、鶏ガラスープ付)1650円
内容は一本ずつ選べるのがうれしい。写真は、つくね、手羽先、ねぎま、すきみ、梅しそ焼き、無塩バターとつけて焼いたトマト。熱々のうちにどうぞ。
●クレームブリュレ550円
エゴマや田子産にんにく、唐辛子、海藻などをエサにし、抗酸化物質に頼らない方法で育てた鶏の、臭みが全くない“あすなろ玉子”が入荷したときにのみ、パティシエで奥様の真澄さんが作る人気の甘味。パリパリと香ばしいカラメルと、とろけるカスタードの組み合せが秀逸。
*銘柄、料理は季節によって内容が異なります。
【店舗データ】
emma sumibi & kanmi
東京都文京区本郷6-17-2-1F
03-3813-8905
火水木金ランチ11時半〜13時半(限定20食の親子丼が売り切れ次第終了)、18時〜23時(22時半LO)
日月祝休(祝はディナーのみ)
【プロフィール】
山内聖子(SSI認定利き酒師・呑みますライター)
1980年生まれ、岩手県盛岡市出身。“夜ごはんは米の酒”がモットーで、日本酒とは10年以上の付き合い。全国の酒蔵を巡りながら、dancyu、散歩の達人、Discover Japanなどの他、数々の週刊誌や書籍で日本酒について独自の切り口で執筆。他にも焼酎、ビール、あらゆる酒場、料理についても多数寄稿している。連載に「酒とツマミ究極の出会いを探して」(週刊大衆ヴィーナス)、「NEO・日本酒論〜飲み方の新提案から妄想までいいたい放題〜」(散歩の達人)、著書に『蔵を継ぐ』(双葉社)がある。