2014年9月、「Bar EST!」の渡辺昭男さんも修行した老舗「琥珀」の隣に新たなバーがオープンした。扉の横には、オーナーの名字「井上」をお洒落にデザイン化した看板。その向こうには地下への階段がやはりお洒落に伸びていて、吹き抜けにはこれまたお洒落なステンドグラスがあしらわれている。これらの内装だけで、まだ見ぬ“彼”は相当やり手に違いないと確信してしまう。それが、「Bar 井上」だ。
(取材・文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人)
「僕は岐阜出身で長男なのですが、東京で好きなことをやらせてもらっている。それを許してくれた両親や親戚への感謝と報告を兼ねて、自分の名字を冠しました」
カウンター7席&テーブル4席の小さな空間は、親密だが窮屈さをまったく感じさせない巧みな設計。バックバーには、1990年代頃に流通していた懐かしの蒸留酒が数多く並ぶ。
「僕がバーで最初に働いた22歳頃は、お酒がほとんど飲めなかったんです。でも、バーテンダーとお客様が作り出す素敵な空気感に触れる中で、“自分がやりたいのはこれだ”と思って。以来、いつか自分の店を出す時に、当時出していたボトルを懐かしんで欲しくて、少しずつ買い貯めてきました」
これらのボトルは、現在ほとんど終売。オークションなどで高額で取引されているが、井上さんは購入時の価格に設定しているので、驚くほどリーゾナブルに楽しめる。また、現行の面白いボトルの調達にも積極的で、今一押しなのが、インド産シングルモルト「アムルット」と、スコッチシングルモルト「スプリングバンク」のグリーン。前者はモルトマニアックスアワードの最高賞を獲得。後者はオーガニックの大麦を使用した限定品で、どちらも飲みやすく味わい深い。
特定の師匠を持たない井上さんだが、カクテルを作る姿も実にシャープだ。一番のお気に入りは「サイドカー」で、ブランデーをベースに、ホワイトキュラソーの華やかなオレンジの香りと、フレッシュなレモンの酸味を絶妙に合わせている。
そして今回、「東京・春・音楽祭」用にオリジナル・カクテルをお願いしたところ、二つ返事で快諾。ラム、梅酒、ネクターピーチ、チェリーブランデーを甘くすっきり仕上げた、その名も「春の訪れ」だ。2〜3月は「湯島天神梅まつり」が行われることもあり、井上の定番カクテルとして今後も長く愛される1杯になりそうだ。
■Bar 井上(ばー いのうえ)
文京区湯島3-44-1 高橋ビルB1F
TEL 03-5826-4637
営業時間
月〜土19:00〜5:00
日・祝日19:00〜24:00
休業日:不定休
*東京春祭オリジナルカクテル「春の訪れ」(有料)
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