東京春祭〈Geist und Kunst〉室内楽シリーズ vol.1 郷古 廉(ヴァイオリン)&加藤洋之(ピアノ)

 従来にない発想に立った注目の新企画が始まる。ヴァイオリンの郷古廉とピアノの加藤洋之による〈Geist und Kunst〉室内楽シリーズである。これは、2017年から19年の東京春祭におけるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏で多大な成果をあげた2人が新たな視点で挑む、「Geist(精神)と Kunst(芸術)」をモットーに掲げたシリーズ。加藤によると「テーマに即したタイトルを付け、室内楽やコンサートの新たな可能性を切り開きながら、音楽を通じて人間の本質的・普遍的な問題提起ができる旅へと誘う」のがコンセプトだ。ちなみにGとKは、Geige(ヴァイオリン)とKlavier(ピアノ)、Goko(郷古)とKato(加藤)の頭文字でもある。

 今年のタイトルは「東方の深き闇より」。「東方」であって「東欧」でないのがポイントだ。演目は、チェコのヤナーチェクとマルティヌー、アルメニアのハチャトゥリアン、ブルガリアのヴラディゲロフ、ジョージア(グルジア)のツィンツァーゼ、ルーマニアのエネスクの作品。つまり、コーカサス地方を含めた「東方」の姿を浮き彫りにし、「各土地に根ざした人間の魂の奥底から湧き出る音楽を追求する」内容となっている。ヤナーチェク、エネスクのソナタなど比較的知られた名作もあるが、ヴラディゲロフの「ヴァルダル」、ツィンツァーゼの「民謡の主題による5つの小品」はかなりレア。前者は「物凄い超絶技巧曲」、後者は「土着に特化した曲」だというから楽しみだ。

 郷古は、完璧な技巧と芳醇な音でストレートかつニュアンス豊かな音楽を奏でるヴァイオリニスト、加藤は、卓越した技術と的確な表現力を持つ、室内楽での信頼も厚いピアニストである。さらに今回は、実力派チェリスト・横坂源も参加。全員が音楽の本質を聴かせる真の名手だけに期待は大きい。真摯かつハイクオリティの演奏を味わい、激レア作品を生体験する妙味を堪能し、音楽と人間の在り方を今一度見直す機会を得られる本公演。すべてに興味津々だ。
文:柴田克彦

左より:郷古 廉 (C)Hisao Suzuki、横坂 源 (C)Takashi Okamoto、加藤洋之


【公演情報】
東京春祭〈Geist und Kunst〉室内楽シリーズ vol.1
郷古 廉(ヴァイオリン)&加藤洋之(ピアノ)
東方の深き闇より–横坂 源(チェロ)を迎えて

2021.4/16(金)19::00 東京文化会館 小ホール

●出演
ヴァイオリン:郷古 廉
チェロ:横坂 源
ピアノ:加藤洋之

●曲目
ヤナーチェク:ヴァイオリン・ソナタ JW VII/7
マルティヌー:チェロ・ソナタ 第1番 H.277
ハチャトゥリアン:詩曲 《吟遊詩人に敬意を表して》
ヴラディゲロフ:ブルガリア狂詩曲 op.16 《ヴァルダル》
ツィンツァーゼ:民謡の主題による5つの小品
エネスク:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 イ短調 op.25 《ルーマニア民俗音楽の性格で》

●料金(税込)
S¥5,000 A¥3,500 U-25¥1,500
ライブ・ストリーミング配信 ¥1,500


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