音楽評論家・東条碩夫がおすすめする東京春祭

 WEBぶらあぼANNEX東京・春・音楽祭2018特設サイトでは、クラシック音楽に詳しい各界の著名人にそれぞれの立場から東京春祭の魅力と、おすすめ公演をアンケート、ご紹介する。第1弾は、音楽評論家の東条碩夫。


━━あなたにとっての東京春祭の魅力、楽しみ方は?

 ワーグナーばかり10年間もやるとは何事だ、と腹に据えかねている人もいるかもしれませんが、自称ワグネリアンたる私などには大いに有難いこと。それだけでも今の春祭には愛着があります。まして1カ月の間に集中して開催される多種多様の演奏会。夜の国立科学博物館で、恐竜の傍で聴く「ナイトミュージアム・コンサート」なんて、何となく雰囲気があって、いいじゃありませんか。桜の「上野の春」という独特のイメージが、私は好きです。


━━おすすめ公演3つ。それぞれのお薦めポイントは?


●東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.9 
《ローエングリン》(演奏会形式/字幕・映像付)(4月8日、15日)

 やはり、まず「ローエングリン」でしょう。題名役を人気抜群のクラウス・フローリアン・フォークトが歌います。これが第一の魅力。2012年と2016年に新国立劇場で歌った同役は見事なものでした。春祭では2013年に歌った「マイスタージンガー」のワルターが記憶に新しいでしょう。そしてもう一人、悪女オルトルート役のペトラ・ラング。その凄味は、昨年の新国立劇場でも実証済みです。ウルフ・シルマーも手堅くいい指揮を聴かせてくれると思います。


●東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.5 
ロッシーニ 《スターバト・マーテル》 (没後150年記念)~聖母マリアの七つの悲しみ(4月15日)

 「ロッシーニの生誕150年企画がいくつか組まれていますが、彼の「スターバト・マーテル」(4月15日)を私は楽しみにしています。何しろこの曲、あまり「宗教曲ふう」でないところが面白い。第2曲のテノールの「アリア」など、何かの歌にそっくりですし、第10曲「フィナーレ」に至ってはまるでオペラの如く劇的、最後の個所など「こうして主人公は波乱に満ちた生涯を終えたのであった」という幕切れの音楽のよう。むしろ楽しくなります。


●東京春祭 歌曲シリーズ vol.22 
ペトラ・ラング (ソプラノ)(3月23日)

 フォークト、コニエチュニー、中村恵理ほか内外の名歌手のコンサートも多いですが、私が特に今回注目しているのは、ぺトラ・ラングの歌曲リサイタル(3月23日)です。オルトルートを歌っても、ブリュンヒルデ(2017年新国立劇場)を歌っても凄い。つまり現代屈指のドラマティック・ソプラノなのです。その彼女が、ブラームスやマーラーやR・シュトラウスの歌曲を歌うのですから、どんな声で、どんな歌唱表現を聴かせてくれるか━━。

文:東条碩夫(音楽評論家)


【Profile】

早稲田大学卒。1963年FM東海(のちのFM東京)に入社、「TDKオリジナル・コンサート」「新日フィル・コンサート」など同社のクラシック番組の制作全体に携わる。1975年文化庁芸術祭大賞受賞番組(武満徹作曲「カトレーン」委嘱)制作。  のちFM静岡編成制作部長、FM東京制作一課長、「ミュージックバード」(CS-PCM衛星デジタル・ラジオ)編成部長等歴任。現在はフリーの評論家として新聞・雑誌等に寄稿、TV、FM番組に出演。 ●著書「朝比奈隆ベートーヴェンの交響曲を語る」(音楽之友社刊)、「伝説のクラシック・ライヴ」(TOKYO FM出版)他、共著多数。


【公演情報】
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.9 
《ローエングリン》(演奏会形式/字幕・映像付)

2018.4/5(木)17:00
2018.4/8(日)15:00
東京文化会館 大ホール

東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.5 
ロッシーニ 《スターバト・マーテル》 (没後150年記念)~聖母マリアの七つの悲しみ

2018.4/15(日)15:00 東京文化会館 大ホール

東京春祭 歌曲シリーズ vol.22 
ペトラ・ラング (ソプラノ)

2018.3/23(金)19:00 東京文化会館 小ホール